鳩山理念と右下がりの関係-岡本教授の時論・激論

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海南タイムズ  平成22年9月


六十五年前から持ち越しの「敗戦占領症候群」


大阪国際大学名誉教授  岡本幸治


  昭和二十年九月二日、戦艦ミズーリ上で日本は降伏文書に調印。形式的には連合国、実質的には米国の単独占領と言ってよい対日占領行政は、六十五年前のこの九月から開始された。九月十一日には早くも東条英機元首相等三十九人に戦争犯罪人逮捕令が出されている。日本人は八月十五日を終戦記念日と呼び「戦後」がその日から始まったと受け止めているが、そうではない。火事場泥棒よろしく、広島原爆投下のあと八月八日に日ソ中立条約を無視して満州を侵略し日本人への暴行強姦略奪を繰り返していたソ連は、、日本の北方領土を略取する攻撃を継続していただけでなく、国際法を無視して七十万人もの軍民をシベリア強制労働に拉致していた。ヤルタ会談でソ連に対日参戦を密約させていた米国は、「同盟国」ソ連の違法行為を阻止しようとはしなかったのだ。


  「降伏後における米国の初期の対日方針」が連合国最高司令官マッカーサーに伝達されたのは九月二十二日のことである。その冒頭には「究極の目的」として、@日本が再び米国の脅威とならざることを確実にすること、A国連憲章の理想と原則に示された米国の目的を支持すべき政府を究極において樹立すること、を掲げていた。この目的を実施するための二本柱が、「非軍事化」と「民主化」であった。米国は昭和十七年の夏(日米開戦後僅か半年余)から国務省内で対日占領政策の検討を始めている。ニューヨークにそそり立つ国連ビルが示す通り、国連とは米国が主導する「連合国による戦後秩序維持構想の産物」であり、憲章第五三条は、未だに日本を「敵国」と定めている。


  米国の対日占領は大成功を収めたと言ってよい。「占領の究極目的」が見事に達成されたからである。今日に至るまで日本は、@「米国の脅威」になるどころか米国のご機嫌取りに汲々とし、A外交の基本理念に「国連中心主義」なるものを掲げて自主外交の展開をできるだけ控えてきた。小沢一郎などは、国連が望みさえすれば海外への自衛隊派遣をどしどし行えと言っている。かつて「国連は田舎の協同組合のようなものだ」と述べた大臣が首になったこともある。対日占領政策は見事に日本人のオツムを洗脳することに成功したのである。日本人から自主独立の精神を摩滅させ、肥った豚に甘んずることを誇りとするような倒錯した国民の育成に、見事な成果を収めたのだ。


  明治維新以来の大改革を行うという触れ込みで有権者の喝采を浴び衆議院の多数を制して政権の座に着いた民主党内閣になっても、この「敗戦後遺症」は一向に変化がないばかりか、むしろ病は膏肓に入りつつある感がある。今年は日韓合邦条約締結百年、日韓基本条約締結四十五年の節目になるというので、ご丁寧にも事前に韓国のご意向伺いをした上で菅首相は、戦後五十年に出した村山談話の上塗り謝罪談話を出した。それを見ると、日本を米国の脅威にしないために取られた占領下の諸政策(思想統制・出版物統制・マスメディアから私信にまでの厳重な検閲・教育改革・「日本改造学科」として設けられた「社会科」における日本侵略国家論のすりこみ等々)の影響が、六十五年経った今も持続していることが分かる。民主党よ、利権呆守党との違いを明らかにするためには、明治維新以来の大改革という大風呂敷を広げる前に、六十五年前からの「敗戦後遺症の克服」に大胆に取り組む勇気はないか。そうすれば鳩菅に幻滅していた選挙民の評価が一変する。地に落ちた民主党人気上昇の王道はここにある!