中共政権の崩壊は近い、か?-岡本教授の時論・激論

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海南タイムズ  平成23年2月


中共政権の崩壊は近い、か?


大阪国際大学名誉教授    岡本幸治


  今世紀前半における日本外交にとって最も厄介な相手は中国であることが、次第にはっきりしつつあるが、我が国では中共政権の将来をどう見るかについて大きく見解が分かれている。マスメディアに顔を出す中国専門家と称するお歴々は、目先の解説はできても中期展望には全く自信がないか、それぞれの思惑ないし好き嫌いで色を付けた希望的観測しか語れない御仁が多い。議論を実のあるものにするためには、楽観論であれ悲観論であれその根拠をしっかりと吟味することであろう。今回は悲観論(中共政権崩壊論)の一つを取り上げて検討してみよう。


  中国では急速な経済発展の陰で貧富の格差が一段と拡大している。貧困層の圧倒的に多いのは農村であるが、その農村で近年暴動が多発しており、しかも年々増えている。


  今年は辛亥革命勃発百十周年に当たるが、繁栄を誇った大清帝国が内部から崩壊していく過程で農民暴動が大きな役割を果たしていた。中共政権も遠からず同じ運命を辿るであろうというのがこの説の要旨である。


  中国史を振りかえれば、王朝末期に多発した農民暴動が政権崩壊に大きな役割を果たした事例はいくつもある。この歴史が繰り返されれば、ユニクロは困っても日本国にとっては歓迎すべきこととなるが、待てしばし。希望的観測と現実判断の混同は禁物だ。


  最近の中国農民暴動の背景にある不満の多くは、地方の共産党官僚が土地の使用権を安く農民から買い上げ、高い値段で外国企業などに譲り渡して莫大な利益を懐に収めることを知った怒りである。地方官僚はいろんな名目の税を勝手に新設して稼いでもいる。


  農民暴動は日本史で言えば江戸中期以降、商品経済の浸透と共に多発した百姓一揆の同類なのである。両者は過酷な税、過少な分配金などに対する不満の表明であるが、それは「私益」に関わるものだ。税金を下げ、分配金を上げ、ついでに責任者の引責交代でもやれば、そこで収まる種類のローカルで私的な不満なのである。


  これが体制崩壊に結びつくためには、私益の問題を公益の問題として意味づける知的作業が不可欠である。つまり農民が抱える不満の根元にあるのは実は体制そのものの問題であるから、体制(権力)を変えない限り問題は解決しない。体制そのものの変革(現権力の打倒)こそが必要なのだと訴えて、点の不満を線から面に連ねていく作業が必要なのだ。かつて毛沢東はそういう訴えを行って国民党権力の打倒に成功した。日本の百姓一揆はそのような理論家・有力な組織者を持たなかったから、徳川体制の柱を弱めることに貢献したが徳川体制を崩壊させたとは言えない。


  中国の農民暴動はただ今の所多数の点にとどまっている。現政権(中共支配体制)に引導を渡さない限り農民の貧困や悲劇はなくならないと主張し、農民暴動の理念化・組織化に成功する第二の毛沢東が現れない限り、体制崩壊はないということになる。


  清朝末期に体制破壊を主張したのは日本留学組を核とする革命派(のちに国民党を組織した)であった。その前に農民などの不満を吸収して面造りに取り組んだのは新興宗教である。無知蒙昧の農民の組織化には宗教の力が有効である。それを知っているから、中共政権は法輪功を弾圧し、劉暁波を獄中に閉じこめている。点を面に拡大させないようにしている。以上の結論。多発する農民暴動だけで中共支配体制が崩壊することはない。