中国東北部の旅で再確認したこと-岡本教授の時論・激論

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海南タイムズ  平成22年1月


中国東北部の旅で再確認したこと


大阪国際大学名誉教授      岡本幸治


  最近、吉林省都の長春にしばらく滞在した。長春は満州国の首都新京であり、今でも町の至る所に日本が造った主要建築物がそのままの形で使用され、観光施設になっている所もある。長春駅は旅客数の激増に対応するために大規模な改修工事に入っていたが、駅前の旧大和ホテルは相変わらず風格のあるホテルとして使用されている。もっとも新館も付設した国営のこのホテルは、利用者に聞けば飯がまずくサービスも良くないらしい。


  長春で最大の観光の目玉となっている施設は、「偽皇宮」(満州皇帝溥儀の宮廷)と、その隣接地に三年前に開設し最近展示物なども大幅に増やした「東北侵略記念館」である。もと三十元であった入場料は、八十元(一元約十四円)に値上げされていた。平均月収は、近辺の農民で七百元程度、市内のサービス業従事者では最近急上昇して千百元前後(三年前には八百元程度)とのことであったから、この入場料は決して安くはない。記念館の整備と新展示物の収拾にかかった費用が上乗せされているせいか?


  中国では九〇年代半ば以降に「愛国主義教育基地」が二百以上も造られた。八〇年代以降の改革開放による「西風」の浸透、八九年の天安門事件の衝撃、九二年のソ連崩壊による共産党独裁への信頼低下などで揺らぎだした国内統一を、思想の締め付けによって回復しようとした懸命な努力は、歴史教育において日本侵略と反日を強調することに向けられた。その努力が現在も継続中であることがまことによくわかる施設である。例によって入口の前には、反日教育推進の親玉・江沢民大先生の「九・一八(満州事変)を忘れるな」という文字が大書されている。


  長春の施設では、中共指導の愛国者たちが頑強に関東軍に立ち向かって東北の解放を成し遂げたこと(実は満州「解放」の実行者はソ連軍である!)、日本では「新しい教科書」を作って中国侵略の歴史を歪めようとしている反動分子がいるが、各地の「中日友好協会」が中国人民との友好活動を強化している等々が、日英中三カ国語で大きな写真を用いて解説されている。戦後処刑されても当然の「偽皇帝」溥儀が、中共式労働キャンプ生活によって前非を悔い、一人の公民として立ち直る姿も強調されていた。たまたま多数の満族中学生が、先生に引率されて来ていたのが印象的であった。


  当時南部では各地で反日暴動が起きていたことを帰国してから知ったが、東北三省などの北部ではその気配は皆無だった。二〇〇五年の反日暴動では北京・上海などの大都市が中心、今回は四川などの田舎都市が中心。このような差はどこから来るのかを、きちんと解説したメディアや中国専門家は、日本にいたのだろうか。


  僕は中国における正しい日本理解が重要だと考えており、今回は長春入りの前に、北朝鮮脱北者がめざす朝鮮族自治州に滞在し、国立重点大学の延辺大学で学生相手の意識調査と特別講義を行い、日本文化に関する書物の寄贈も行った。今回の中国滞在を通じて僕自身が再確認したことは、以下の三点になる。


@中国は広くて多様だ。大都市に住んでいる特派員の情報のみに頼っていては「中国問題の全貌」を掴み損なう。

A「愛国主義教育」によってばらまかれた「反日の油」は、火をつければ簡単に燃え上がる。

Bデモが許されていない中国で反日暴動が許容される程度には、政治操作が必ず加わっている。