問題提起二つ

> コラム > 伊原吉之助教授の読書室


  伊原註:以下は 2008.12.5 ( 金 ) 21世紀日亞協会 145回例會 侃々諤々の會で行った問題提起です。

當日配布したレジュメを、増補してからと考えて掲載を遲らせて來ましたが、目下年末で殊のほか忙しく、ほぼ原型のまま載せることにします。當日出られなかった方々にも見て戴きたいからです。



            問題提起二つ

                                                伊原 吉之助


I. 田母神論文 「 日本は侵略國家であつたのか 」 :


( 1 ) 田母神俊雄航空幕僚長、アパグループ 「 眞の近現代史觀 」 最優秀賞:


  10.31 政府 ( 麻生太郎首相・濱田靖一防衛相 ) 、更迭を決定

    麻生太郎評= 「 基礎學力に疑問のある、只のオッチョコチョイ 」 ( 『 選擇 』 12月號、56頁 )

  11. 1 花岡信昭メールマガジン 642號:審査の經緯を報告

  11. 3 田母神氏、記者會見: 「 國家のため論文を書いた 」 ( 『 産經 』 11.4,2面 )

  11.11 參院外交防衛委員會:田母神前空幕長を參考人に招致:招致しておいて喋らせず!

  11.27 田母神前空幕長インタヴュー 「 國を惡く言へば使命觀生れぬ 」 ( 『 産經 』 11.28, 5面 ) : 「 なぜ日本だけ侵略國家と言はれるのか 」 「 政府見解と違ふ意見は言へないのか 」 「 核武装論があつてもよい 」


  『 正論 』 『 Will 』 1月号に評論多數掲載/森本敏 ( 正論 『 産經 』 12.5, 21面 )


( 2 ) 私の結論:日本語が通じなくなつてゐる!/日本から常識が喪はれた?


  田母神論文が發したメッセージ:

「 お前らは惡い戰爭をした 」 といふ謀略史觀を排除しないと國を守れません。

部下に 「 惡い父祖の子孫を守るため生命を捧げよ 」 と命令出來ぬからです。

村山談話を否定すべきです。


  →至極尤もな田母神空幕長の提言に耳を傾けるどころか、馘首した日本政府は 「 反日團體 」 である

  →日本政府=主權 ( 北方領土・竹島・尖閣諸島 ) も守らず、拉致された國民も守らぬ背任横領集團


II. 中川八洋の大東亞戰爭論:スターリン の 世界共産化に協力して反自由經濟に狂奔した自滅的戰爭


  參考文獻:中川八洋 『 近衞文麿とルーズヴェルト:大東亞戰爭の眞實 』 ( PHP研究所、1995.8.17 )

         〃  『 聯合艦隊司令長官 山本五十六の大罪 』 ( 弓立社、2008.6.10/8.15第四刷 )

       拙稿 「 國際謀略に即應せよ 」 ( 『 關西師友 』 平成19.9月號/ 「 伊原教授の讀書室 」 に掲載 )


( 1 ) 中川八洋の論旨 ( その一 ) :

  滿洲事變と滿洲國の建國は アジア の 平和に無限の貢獻をする ( 幕末以來、北進が正しい )

  支那事變に始る 「 八年戰爭 」 ( 南進 ) は 共産化・ロシヤ の 侵略を促し アジア の 平和に とって 弊害夥しい

  ロシヤ は 滿洲事變後、對日謀略を強化し、南進して英米と衝突するやう仕向けた。cf. ゾルゲ の 派遣

  その手先:近衞文麿・尾崎秀實 ( 昭和研究會 ) +海軍 ( 米内光政・山本五十六etc. )

  ソ聯の手先の生殘りが戰後、眞相抹殺をやつたため、日本人はあの戰爭の眞相を誤解した儘、云々


( 2 ) ロシヤ發ニヒリズムの災厄 ( 伊原解説 ) :

  1 ) 「 第三 の ローマ 」 論:フィロフェーイ ( プスコフ の 修道士 ) の 大公ヴァシーリーIII世 ( 1505-33 ) 宛書簡

    「 第一 の ローマ は アポリナリオス派の異端によって滅び、第二 の ローマ コンスタンティノポリス は異教徒 トルコ人に 攻落され略奪されました。しかし 新しい第三 の ローマ が尊公の王國に生れたのです。尊公は世界の あらゆるキリスト教徒に とつて只一人の王であります。二つ の ローマ は 没落しましたが、第三 の ローマ モスクワ は 存續し、第四 の ローマ はあり得ますまい 」

  →この使命觀が、 「 神は、人類を救ふためには人類の半分を叩き殺しても許される 」 といふ獨斷的獨善的傲岸を産む。


  2 ) 19世紀 ロシヤ が生んだニヒリズム:19世紀60年代に於る唯一の社會思潮 ( 代表=ピーサレフ ) 。トゥルゲーニェフ の小説 『 父と子 』 ( 1862 ) で 普及。同じく60年代に新生した インテリゲンツィヤ ( 教育ある者→識者 ) の 知的解放運動として始り、 「 知性を以て體制の缺陥を認知する者 」 の意で使はれ、 「 ツァーリ の 專制權力によつて進歩を阻まれてゐる社會 」 といふ認識から革命論に展開して ナロードニキ となり, 要人暗殺行動に到る。


  〈インテリゲンツィヤ の 三段階と代表的人物〉

    第一段階 ( 1770s-1830s ) :Aleksandr Radishchev ( 1749-1802 ) /デカブリスト

    第二段階 ( 1840s-1850s ) :Belinskii ( 1811-1848 ) /Gertsen ( 1812-1870 )

    第三段階 ( 1860s-1890s ) :Chernyshevskii ( 1828-1889 ) /ナロードニキ


  3 ) 19世紀西歐のニヒリズム:神學的宇宙觀→機械論的宇宙觀/合理主義の行き着く果

    「 神は死んだ 」 ( ニーチェ ) / 「 死に到る病 」 ( キルケゴール )

   合理主義とは、或る前提を置いた狹い範圍内でしか通用しないもの

   cf. 生態系の無數の連鎖を見よ/大社會の問題も同じ ( 社會主義計劃經濟の傲慢さ! )


  4 ) 20世紀 ロシヤ が生んだ共産主義 ( リェーニン主義 ) :

   同志を肅清して恐怖の統治を行ひ、革命を輸出して全世界を ソヴェト化 ( 恐怖の増殖 )

   ミュンツェンベルグ=リェーニン が 1920年代に全世界に謀略網を張り巡らせ インテリ を 取込む


  資本主義打倒の三策:

1 ) 西側諸國の自由を徹底利用して浸透せよ

2 ) 資本の論理 ( 利潤動機 ) で西側要人を取込み、徹底利用せよ

3 ) ルール を一切無視して宣傳・煽動・洗腦に勵め →倫理道徳なし 殺人も平氣!


III. ソ聯の對日工作と日本國内の親ソ勢力のソ聯迎合 ( 中川八洋の論旨 その二 ) :

( 1 ) マルクス主義・リェーニン主義による 「 啓蒙 」 :資本主義・自由主義も それを守る英米も 「 時代後れ 」 と 宣傳

  1930年代の世界大不況+日本の不況が資本主義没落論を信じさせた/右翼まで社會主義化

  ソ聯 「 五箇年計劃 」 を譽め稱へ、統制經濟・計劃經濟の優位を信じ込ます/河上肇→近衞文麿


( 2 ) 天皇を擔いで天皇制潰し:北一輝/近衞文麿 ( 支那事變→大東亞戰爭で親ソ反米を貫く )

  昭和研究會はソ聯の手先の巣窟/終戰時、近衞親ソ内閣でソ聯軍を迎へ入れる豫定だつた……


( 3 ) 陸軍 ( 主流反ソ・若手親ソ ) への浸透:1930櫻會→31滿洲事變→36二二六事件→37支那事變→41大東亞戰爭→關東軍を南方で消耗し、滿洲にソ聯軍を迎へる準備を整へる

  陸軍の徹底抗戰・本土決戰主張はソ聯軍迎へ入れのため ( 親ソ抗米 )

  1945年に米との仲介をソ聯に頼んだのは、ソ聯と結ぶ用意


( 4 ) 海軍 ( 多數無關心・少數親ソ ) への浸透:米内光政・山本五十六ら。軍縮反對派が優勢化

  米内の罪=支那事變長期化・潰滅海軍に繼戰さす・特攻制度+特攻兵器で若者を殺戮

  山本の罪=眞珠灣は 米國挑發・ミッドウェーは 米に制海權を賦與・ガダルカナルは 日本軍の大消耗作戰

   山本五十六の大東亞戰爭=長岡藩の悲哀と屈辱に對する怨念と復讐の 「 第二戊辰戰爭 」

  高木惣吉=第二昭和研究會にソ聯の手先を集める。矢部貞治・佐々弘雄・田中愼次郎・杉原荒太ら

→石川信吾らと結託して 「 對米戰爭必至 」 の 雰圍氣を醸成した


( 5 ) 支那事變で南進へ:1938.4.1國家總動員法

  慌ただしく南進を決める:41.6.22 獨ソ戰爭→ 6.24 陸海軍、南進決定 ( 北進阻止のため )


( 6 ) 大東亞戰爭で南進完成:日本を米英と噛合せた


( 7 ) 東京國際裁判で眞相曝露を避けるため、近衞文麿に自殺させた ( 牛場友彦が 青酸カリ を渡す )

1945.11.9 東京灣上:ソ聯工作員による 4時間に及ぶ近衞文麿訊問 ( 通譯=牛場/都留重人が同席 )


( 8 ) 戰後、海軍の生殘りは歴史の改竄・眞相隱滅に狂奔


結 論1 ) =大東亞戰爭とは、日本國に對する國家叛逆戰爭であつた。祖國を、同胞國民の生命を スターリン の アジア共産化の手段に供した戰爭であつた ( 『 山本五十六の大罪 』 第六章 )


結 論2 ) = アジア共産化に奉仕するため日米が戰つた無益な戰爭。日米兩國ともソ聯・スターリン に 奉仕

 その犠牲=軍人の戰死者:日本將兵 210萬人/米國將兵 9萬人餘/シベリヤ抑留 105萬、死者55萬etc.

      國民も、空襲・原爆・戰闘の捲添に遭ひ、大量死!


IV. 戰後の日本:ブロイラー化した? 下衆の國と化した?


  經濟成長で米國に一矢報ひた。聯合艦隊の代りに綜合商社で商戰を戰ひ、勝つて 「 經濟大國 」 となる

    ↓

  1985.9.24 Plaza合意で円高ドル安/これを演じたレーガン政權が借金經濟で金融危機の原因をつくる

   cf. 日本現代史の 40年サイクル

1868 明治維新→ 1905 日露戰爭→ 1945 大日本帝國滅亡→ 1985 プラザ 合意→ 2025 ???


  その間、日本は露・米・中共・朝鮮 ( 北朝鮮・韓国 ) により、政・官・財・メディア・自衛隊・警察・教育界・言論界に浸透されて、良いやうに國益を吸取られて現在に到る


  我國に反日團體數々あれど、最大の反日團體は日本政府である ( 拙稿 「 反日蔓延る不思議の國日本 」 ) 政治家も殆ど浸透され、操られてゐる


  私の結論=日本人を鍛へ直すほかなし/みそぎ/臥薪嘗胆/質實剛健/風流/優雅/精神充實

   金融危機の到來=強欲資本主義から脱出する好機!


平成20年12月20日の追記:

中川八洋の議論は、戰前の日本の上層部がソ聯の手先に浸透されてゐて、日本潰しに狂奔してゐたかの如く受取れるので、にはかに信じ難いが、支那事變にしても大東亞戰爭にしても、日本が本氣で戰つてゐたにしては辻褄の合はぬことが數々ある。その點を考へ直すためには、實に貴重な問題提起である。