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伊原注:以下は『関西師友』平成20年2月号に掲載した「世界の話題(219)」です。



        台湾企業家の統一論議



     「両岸平和共存法」提唱


 台湾の聯華電子名誉会長・曹興誠(外省人)が昨年11月12日、台湾の新聞三紙(自由時報・聯合報・中國時報)に半面広告を載せ、馬英九(中国国民党)・謝長廷(民主進歩党)両総統候補に、国内法「両岸平和共存法」の制定を呼掛けました。両候補共同でこの案を提案されてはいかがですか、と。


 その提案とは──

 独立は戦争を誘発するので、台湾は独立を問う国民投票(以下、公投)は行わぬと決めた上で、大陸(中共政権)との統一を公投にかけることにする。国内の政争を避けるため、この公投は自発的には行わず、大陸の要求により、実施する。但し大陸は、台湾に公投を要求する前に、台湾に許す「高度な自治」の内容を詳しく公開して貰う。それをしないようなら、統一は遠のくだけだと。


 台湾の民意が、統一を有利と判断するならば、賛成多数で成立する。

 不利と思えば成立しない。大陸は成立するまで何度でも公投を要求できるが、その度に「高度な自治」の内容を台湾人の有利なように改める筈だ。そうしないと、台湾人の賛成を得られないからである。

 従って台湾人は、有利と思うまで反対し続ければ、その間、「現状」が維持される。


 かくて両岸の「現状」が、法令と民意の基礎を得て安定し、台湾は好きなだけ現状が維持できると。


     台湾で賛否両論衝突


 ネットでは、台湾ビジネスマンの85%が忽ちこの案に賛成しました (英字紙『タイペイ・タイムズ』11月15日付) 。


 独立派元老は、統一しか選べぬのはおかしいと大反対します。

 張俊雄行政院長は、公投とは人民が連署して規定の人数に達した場合に行うものである、曹興誠は公投を誤解していると論評しました。


 そのほか、反対論が続出します。

 台湾が「統一公投」を言えば、台湾が中国から分裂状態にあると認めることになるとの反対論あり。

 台湾が国内法で勝手に決めたことを大陸が守る保証は何らないという議論あり。

 大陸がいくら「高度な自治」を示しても、それを守るだろうか? 大陸は1951年にチベットと和平協議に調印したあと、一方的に踏みにじった前例があると反対する者あり。


 それらの反対論のうち、陳水扁総統の批判に応えて11月20日、曹興誠が意見広告で再論しました。


 「商売人が政治を弄ぶ」というが、私 (曹興誠) は昨年ラファイエット艦事件で起訴されて以来、聯電の経営から一切身を引いた。それに、商工界の者は政治を論じてはいかんのか?


 私は、自由民主を守り、台湾を平和・安泰・進歩・繁栄の場にするため実質独立の現状維持法を提案して多くの支持を得た。この提案は単なる思いつきではなく、多くの人と意見交換して練りに練った提案なのだ。


 陳総統がいう法理独立は、中共が断じて許さず、戦争になる。

 それとも、戦争を避けて法理独立する方法があるというのなら、ぜひ示してほしい。ないのじゃないか、大体、選挙の票集めの口実に過ぎないのじゃないか、と舌鋒鋭く迫ります。


     豊かで平和共存したい


 曹興誠は12月4日、三度両岸平和共存法を論じます。


 貧しい時代は供給不足で物資欠乏、貧乏だったので、領土争奪戦をやった。

 だが17世紀の科学革命以来、知識が生産を殖やし、大量生産が軌道に乗って、供給過剰を齎した。


 これで社会に巨大な変化が生ずる。


 人権向上

 個人の解放

 政府の役割が統治からサービスに転化

 施政が地球規模で標準化

 国境が権利の境界から責任の境界へ

 独立の中に統一あり、統一の中に独立がある將来世界へ


 中国が月探査衛星「嫦娥1号」を打上げたのを見て、中国も知識が富を生む段階に達したと思い、頗る喜ばしかった。台湾問題を国共内戦の遺物と見るのは19世紀の見方である。今や両岸問題は21世紀的処理がされるだろうと。


 「21世紀的処理」を曹興誠は、「大 (中国) ハ小 (台湾) ニ事フルニ仁ヲ以テシ、小ハ大ニ事フルニ智ヲ以テス」だと言って、「近キハ悦ビ遠キハ慕イ来ル」という『論語』子路第十三の文句を引用します。




 その言や善し。中国と仲良くするにはもってこいの美辞麗句です。

 しかし、「台湾問題を国共内戦の遺物」と見ているのは、誰よりも、中共首脳連中自身ではありませんか?


     観念に酔う知識人


 私は初め、曹興誠は大陸に投資しているので、心ならずも「統一」を言って大陸にある工場の安泰を願ったのかと疑いましたが、一度ならず、二度、三度(あとで知りましたが、12月26日に四論を発表しています) と繰返し説くところを見ると、かなり本気のようでもあります。


 12月4日の「三論」で曹興誠はこう書きます。

 「意外なほど熱烈な反響があり、その多くが全面支持だ」


 大勢が賛成するのは当然です。

 大陸で儲けようと思う人達が大勢居て、今や中国大陸に居る台湾人は百万人どころか、百五十万人、二百万人と言われる台湾。この人達にとっては、中台間に波風が立たぬ方がいいに決っていますから。


 12月4日までの三編を邦訳しての私 (伊原) の感想──

   意図 (現状の安定的維持) 明確

   論旨 (台湾の前途の選択権を、中共および台湾政客の手から民衆に取返す) 明快

 訳していて、爽快感がありました。

 惜しむらくはこの人、大陸の実体が見えていません。

 中国は低信用社会、中共政権は嘘で塗り固めた低信用政権です。


 「統一公投」を設定すること自体、中共の設定した術中に入ることを意味します。

 台湾の新聞によく出てくる表現を使えば「相手の曲に合わせて踊る」です。


 そもそも、善意が期待できる相手でしょうか?


 中共は、台湾を罠に嵌めたいだけなのです。

 罠に誘うため、少々甘い声を出しているだけなのです。

 窮鳥が一旦懐に飛込めば、あとは生かすも殺すも思いのままですから。

 「釣った魚に餌をやる馬鹿は居ない」


 曹興誠は、狡賢い (これは、政治・外交の世界では「褒め言葉」です) 外省人に似合わず、台湾人並にお人好しですね。

 だからこそ、大陸に投資したのでしょう。


 「時代の趨勢は各政府にサービス提供を促している」といいますが、世界中でどれだけの政府がそんなサービスを提供していましょうか?

 中共政権は人民をひん剥く政権であって、人民を保護する政権ではありません。

  (阮銘は中共政権を「無責任な開放式新共産奴隷制国家」としています。香港『爭鳴』2007年10月号, 51頁)

 中共政権が「人民を愛護する政権」でないことは、中共政権の厳重な規制下にある大陸の報道機関からでさえ読み取れるのに!


 所詮、この提案は、台湾を中国に併呑さすための手先を務めるものです。

(08.1.4執筆/2.2 補筆)