> コラム > 伊原吉之助教授の読書室
伊原注:これは『関西師友』平成19年9月号掲載の「世界の話題」(214) を増補したものです。
国際謀略に即応せよ
米下院の国辱決議
7月30日、米国下院が本会議で「従軍慰安婦謝罪決議案」を可決しました。決議の前に議員がどっと席を立ち、残った十名ほどの議員が「記録に名が残る」のを嫌って「発声」だけで決議するよう求めて受け入れられ、「賛成!」「賛成!」と声を上げて通したというふざけたものですが、首相の公式謝罪を求められた日本にとっては国辱ものの決議です。
この国辱に、日本が「普通の国」ならどう対応するかを、宮崎正弘さんが「国際ニュース早読み」8月1日付でこう書いています。
駐日米国大使を外務省に呼びつけて強く抗議する。
政府声明で「事実に基かぬ歴史認識に立脚した決議への遺憾の意」を反復表明する。この言論闘争は30年続けなければならない。
更に米国議会の愚行を阻止できなかった責任を問い、外務大臣・駐米大使を更迭、外務省首脳人事を刷新する。
行政上の措置として、駐留米軍近辺の売春関連施設を徹底捜索、オオニシ・ノリミツなど不良外人を国外退去等々を実施する。
国内問題解決が先決
駐米大使館と外務省の人事刷新はぜひ断行して貰いたいですが、日米離間の罠にはまってはいけません。それは、この謀略を仕掛けている勢力の思う壺なのですから。
それに、日本側にもこういう付け込みを許した懐の甘さがあります。従って、日本が姿勢を正すのが先決です。
マイク・ホンダ議員の決議案が根拠にした「河野談話」を、安倍首相は「事実に反する」として徹底否定すべきだったのに、継承してしまった。ここにつけ込まれたのです。
そもそも日本は、占領中骨抜きにされた国体を、独立後も再建しなかった。昭和27年4月28日、対日平和条約が発効して独立を回復した時、吉田内閣は占領中の全法規の無効宣言をすべきでした。
占領軍というのは、講和条約締結まで一時敵国を管理するだけで、占領地の法律をいじってはいけないのです。それを「日本を二度と米国に歯向かわせない」ため、米軍は好き勝手に変えました。この不法を独立後、断然匡すべきだったのに、容認し続けた。そのため、日本は独立後も「米軍占領下の日本」から独り立ちできないまま、今日まで来てしまったのです。
謀略に操られた日本
雑誌『諸君!』に「国家情報論」を連載している京都大学の中西輝政教授は、今年四月号に「君は、ミュンツェンベルグを知っているか」を書きました。この人物は、ヒトラーと同年の1889年にドイツのエルフルトに生まれです。第一次大戦中にスイスに亡命し、そこでレーニンの盟友となってボルシェヴィキの世界革命運動に投じました。ソ連誕生後、ドイツに戻ってベルリンやパリを拠点に、日米を含む全世界に向けて、世界革命を成功させるべく、「コミンテルンの情報謀略工作」に従事します。
当時ソ連指導部は「革命の連鎖反応なしにソヴェト政権は生き延びられない」と信じていましたから、世界革命工作は生存のための必死の工作でした。ミュンツェンベルグは クレムリンからの豊富な資金を基に、1920年代に全世界に謀略網を張り巡らします。そして世界中の知識人を直接間接、左翼の謀略に捲込むのです。世の中には、それと知らずに共産革命推進の手先に使われた知識人が一杯居ます。
日米戦争も彼らの謀略の産物でしたし、二二六事件にも彼らの謀略の手が伸びていました (『文藝春秋』2007.3月号掲載の中田整一・保阪正康対談参照) 。張作霖爆殺も彼らの仕業です。従って現代史はミュンツェンベルグ・ネットワークの動きとして全面的に書直す必要があります。
しかも恐ろしいことに、このネットワークはソ連崩壊後も生き続け、威力を発揮し続けているのです。南京大虐殺の宣伝も従軍慰安婦叩きも皆、この左翼マスインテリ・ネットワークが関わる謀略活動なのです(中西輝政「『大いなる嘘』で生き延びるレーニン主義」『諸君!』五月号、参照)。
レーニンの三つの秘策
19世紀のロシヤはニヒリズムの祖国です。モスクワはローマ (カトリック教会) 、ビザンチン (ギリシャ正教) に次ぐ「第三のローマ」として、「世界人類を救済する神聖なる使命」を神から授かったと考える人たちが居ました。彼らは「世界人類を救うためには、人類の半分を殺しても赦される」と考えていました。
何たる独善! と私たちは思いますが、彼らの確信は揺らがない。
このニヒリズムを受継ぐのがレーニンであり、共産主義なのです。
レーニンは、帝国主義、つまり西側資本主義諸国を打倒するため三つの秘策を共産党員に授けます。
第一、西側諸国の自由を徹底利用して浸透せよ。
第二、資本の論理(利潤動機)で西側要人を取込み、西側社会打倒の尖兵として徹底利用せよ。資本家は、自分の首を縛る縄とは夢にも思わず、喜んで売ってくれる。
第三、あらゆるルールを無視して宣伝・煽動・洗脳に励め。
お判りですか。
自由民主主義とは、敵に浸透されやすい体制、無防備な体制なのです。従って、絶えず敵と戦い、必死で支えてていないと忽ち崩壊する体制なのです。手厚い治安・国防組織と共に、しっかりした情報謀略機関なしには保たない体制なのです。戦後の日本はそこを全部 アメリカ に預けて知らぬ顔をしてきました。アメリカに奉仕し続けるのは、その代償なのです。従って、戦後の日本はまともな独立国ではありません。
謀略に無防備な日本
第二次大戦を戦った米国政府がいかにソ連の手先に浸透されていたかは、次の二冊を読むだけで手にとるように判ります。
コーネル・シンプソン (太田龍監修・佐々木槙訳) 『国防長官はなぜ死んだのか──フォレスタル怪死と戦後体制の大虚構』 (成甲書房、2005.12.5)*
ジョセフ・マッカーシー (副島隆彦監修・本原俊裕訳) 『共産中国はアメリカがつくった──G・マーシャルの背信外交』 (成甲書房、2005.12.25)
*伊原注:フォレスタルの「怪死」については、村田晃嗣『米国初代国防長官フォレスタル──冷戦の闘士はなぜ自殺したのか』 (中公新書1486、1999.7.25)が背後の謀略を見抜けぬまま、「自殺」としています。
クリントン夫妻と米国民主党が中共人民解放軍の買収に甘んじていることは、伊藤 貫『中国の「核」が世界を制す』(PHP研究所、2006.3.8) に詳しく描かれています。左翼リベラルは常に反体制の手先を務めますから。
クリントン大統領は、中共スパイ機関から民主党や米国議会に対する莫大な政治献金に対する追究の目を逸らさせるため、ホワイトハウスの女性職員モニカ・ルインスキーとのセックス・スキャンダルをばらしたのだそうです (伊藤著 282頁) 。案の定、メディアはセックス・スキャンダルを追い続け、クリントン政権と民主党の中国資金塗れ問題を追及したコックス委員会の報告書(インターネット で検索できる)は棚上げされてしまいました。
政治の闇は深い!
我らが日本政府も、戦前戦後とも、外国勢力の浸透を許しています。
近衞内閣が正にミュンツェンベルグ・ネットワークに浸透されていたことは周知の事実です。ゾルゲや尾崎秀実を思い出してください。
戦後の歴代内閣も米中両国に浸透されていることは紛れもない。米中どころか、北朝鮮と韓国にも浸透されています。だから朝鮮総連は無税の上、多くの便宜を日本政府から得てきたのです。拉致事件の捜査が「上の方から」ストップをかけられて警察が動けなかったこともよく知られているところです。
では、私たちはどうすればいいのでしょうか。
「根本を正す」「一からきちんと築き直す」ことです。
まず国家意志の構築。これがないから、あの戦争に負けたし、戦後も外国勢力に嘗められ、いいようにあしらわれるのです。
国家意志が確立すれば、あとは「なすべきこと」に優先順位をつけ、一からやり直すことです。こういう基本構築作業をきちんとやらない限り、日本は外国に奉仕させられ続けた上、活力を吸い取られて滅びましょう。
日本国民が「亡国の危機」を自覚するかどうか。
自覚すれば対策が講じられる。自覚しなければ茹で蛙になって一巻の終です。
(07.8.10/11増補)