反日で政權維持を圖る習近平

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    反日で政權維持を圖る習近平



伊原註:以下は『關西師友』平成25年 6月號 8-9頁掲載の「世界の話題」(282號) です。

        少し増補してあります。





    自信を附けた俄か成り金


  ソ聯崩潰後、鄧小平は、

  「當分の間爪を隱し、平和な國際環境を利用して富國強兵に徹せよ」

と諭(さと)しました。

  中文では「韜光養晦、有所作爲」と稱します。


  所が、2009年頃から中共政權は俄(にはか)に居丈高な振舞ひに及びます。


  尖閣諸島周邊海域での中國漁船體當り事件、

  南シナ海でのフィリピンやヴェトナムとの衝突、

  劉曉波ノーベル平和賞受賞騒動での ノールウェイへの露骨な壓力、等々。


  昨年九月の尖閣諸島國有化以降の反日デモの荒れやうを見て、

  日頃中國や國際問題に何ら關心を持たない普通の人にまで、

  中國つて嫌な國、怖い國、無法な國と思ひ込ませました。


  中共の強面(こはもて)化には、幾つかの原因があります。


  先づ、北京五輪を無事開催した自信です。

  こんな大事業をやれるのは一流國、と舞上つた。


  更に、その直後に起きた米國發の金融危機、

  所謂 リーマン・ショックで米國の經濟的な凋落を見透かし、

  米國を見くびるやうになつた。


  危機感もあります。


  歪(いびつ)な經濟成長、經濟格差擴大、汚職の蔓延に下層民の不滿が溜 (たま) り、

  その鬱憤のガス抜きが必要になりました。


  それには、強く反撥しない日本を叩くに限る。

  それによつて國威發揚を圖り、阿片戰爭以來の國辱を晴らさう!


  九月の野田佳彦内閣による魚釣島國有化を口實にした日本叩きは、

  腐敗墮落により頓 (とみ) に「權力の正統性」を喪ひつつある中共政權にとつて、

  お手輕な政權維持の活性劑です。


  習近平が總書記就任以來繰返す呪文

      「偉大な中華民族の復興を實現する」といふ

      「中國の夢」には、

  中國が再び「天下」に「君臨する」狙ひの影に、女々しい恨み節があります。

  自己反省抜きの復讐心です。



    阿片戰爭以來の恨みを晴らす


  中共は、初代の毛澤東政權以來、世界に君臨するつもりです。


  第一目標「世界共産化運動の指導者になる」

  第二目標「二度と外國に侮らせぬ國にする」


  毛澤東はそのため、陸軍だけの黨武裝勢力に海軍空軍を創設した上、

  核武裝・ミサイル開發までやりました。


  無理な開發の代償に、

  農民を少くとも 4500萬人 餓死させても知らぬ顔でした。

  一將功成りて萬骨枯る。


  鄧小平は遲れた經濟を「改革開放」、

  つまり「人の褌利用」で發展させ、強兵のための富國化を劃策します。


  江澤民は、天安門事件で丸腰の學生を虐殺して權力の正統性を失ひ

  利權集團に墮した中共政權を受繼いで、

  弱まつた求心力を反日で辛ふじて纏めて來ました。


  文革世代の習近平は、15歳から 7年近く陝西省の農村に下放させられ、

  農業に勤(いそ)しみました。


  其後清華大學化學工業系に入學し、4年後卒業してゐますが、

  文革期の入學ですから、まともに專門課程を學習してゐない。


  實力なき人物が權力を持てば何をしますか?


  暴れるのが大得意ですから、昨年 9月以來の反日暴動を演出した模樣です。


  昨年 9月 9日、

  野田首相に胡錦濤主席は

    「(尖閣國有化は)全て不法・無效だ。斷固反對する」

  と強硬姿勢を示しました。


  所が實は、日本側は中國外交部に早くから

    「尖閣で揉め事が起きぬやう國有化するから安心されたし」

  と意を通じてをり、外交部も了承濟でした。


  だから胡錦濤主席は氣分良く野田首相と會談する筈だつた。

  それがさうならなかつたのは、

  直前に外交部筆頭次長 張志軍が猛反對したからだと

  中國人の消息通から聞きました。

      伊原註:張志軍は其後、外交部長に就任した王毅の後任として、

              國務院台灣事務辦公室 (國台辦) の主任に轉出しました。


  實は野田-胡會談に猛反對したのは、

  9月 2日から10日間ほど姿を消した

  習近平副主席だつたやうであります。


  9月11日の尖閣國有化後に中國外交部の職員に會つた日本外交官によれば、

  彼らは頗る動轉し、興奮緊張してゐたさうです。

  多分、次期トップに決つてゐる  習近平から

  直接どやしつけられたからでありませう。


  以後の反日デモの荒れやうは言語道斷、

  文革世代 習近平の面目躍如としか言ひやうがありません。


  こんな無法な國と附合ふには、こちらも餘程覺悟を定め、

  「彼を知り己を知」つた上でないと、附合ひ切れません。

(平成25年/2013年5月6日/6.2補筆)



追記(1)毛澤東の後繼者を自負する習近平:

  習近平は黨總書記に就任以來、毛澤東の詩をしきりに引用し、

  毛澤東の口調を眞似てをります。

  また、全國人民代表大會が始る3月5日から「雷鋒に學べ」運動を展開しました。

  毛澤東が 1963.3.5,「雷鋒同志に學べ」と書いて

  「雷鋒に學ぶ キャンペーン」を實施したのに倣つたのです。

 

  毛澤東に倣ひ、大衆運動を利用する點で、習近平は薄煕來に似てゐます。

  やり過ぎると、文革の再來を恐れる元老・同輩から總スカンに遭ふ恐れもあります。



追記(2)怨念を剥 (むき) 出しにする“女々しい" 習近平:

  私はかねてより、中國近代史の敘述に「怨念」が見られることが氣掛りでした。

  そのことを嘗て拙稿「中國近現代史再訪❸」

      (週刊『世界と日本』平成14年10月7日附 4面)

  で觸れました。

  その 5段目に、

  「總じて中國人が書いた阿片戰爭記述は……被害者の姿勢で一貫してゐます」

  と書き、

  「中國人は“惡いのは皆他人" と考へて反省しない」といふ俗説を信じたくなります

  と附け加へました。

  「俗説」と書いてゐますが、これは“中華思想" そのものです。


  伊原註:「中華思想」とは、

          「お山の大將、俺一人」(兩雄並び立たず)といふ獨善と、

          「惡いのは皆他人」といふ無責任です。


  最近、同じことを指摘した『中國近代史』を見附けました。

  張 鳴『重説中國近代史』 (北京、中國致公出版社、2012.2.) です。

      (朱建榮『中國外交』PHP研究所、2012.10.4,30頁 に紹介あり)

  その 3-4頁に、かうあります。

  先づ、原文の要點を引いてをきませう。


    對於近代史的“三婦" 心態


  以往我們對於中國近代史有三種慣常的態度。

  在此, 請允許我打个不嚴謹的比方。


  第一種是怨婦心態, 凡事以哭鬧爲主,

  就是覺得你們總欺負我們,你們從頭到尾都欺負我們,

  我們冤得要死,我們苦大仇深,比竇娥還冤。

  總是在哭,總是在鬧。

  不僅哭鬧,還時不時要掀起衣襟給人看:

  我這傷疤就是當初你弄的。


  第二種是潑婦心態,凡事講打,打不過我撓。

  我要反抗,把整個近代史寫成僅僅是反抗的歴史,

  這個反抗的過程雖然可歌可泣,但華竟没打過什麼勝仗,

  充其量就是撓人一把,還撓不到臉上。


  第三種是情婦心態。它跟前面兩種心態正相反,

  在它看來,殖民歴史也是好歴史,不殖民我們怎麼進歩?

  但是被殖民的過程實際上是很屈辱的,

  不論在哪個國家都是如此,尤其對這個民族的上層菁英來説。


  “三婦" 心態實際是我們國人對待近代歴史比較常見的心態。

  有人説, 這好像都不大對頭啊,我們到底應該怎樣看待歴史和外來者呢?

  我説, 我們能不能別在歴史和外國人面前當婦人。

  你可以將其當做朋友, 也可以視爲敵人, 只要自己別像婦人一樣成就。

  關於心態問題, 我覺得是在看待近代史的時候首先需要思考的問題。



  以上、中文に慣れて頂かうと思つて摘記したのですが、常用字以外の字を使つてゐるので、

  幾つかの字は飛んでしまふかも知れません。


  要點はかうです。

  近代史に對する中國人の受止め方に『怨婦』『潑婦』『情婦』といふ三種の歪んだ心理あり。

      怨婦 yuan-fu (四聲-四聲)= ひたすら相手を恨む心情

      潑婦 po-fu (一聲-四聲)= ひたすらな反撥と報復 (義和團的排外)

      情婦 qing-fu (二聲-四聲)=西洋崇拝の妾(めかけ)根性


  習近平の「中華民族の偉大な復興」といふ「中國の夢」は、

      怨婦+潑婦

  であり、

  「反省抜き」といふ所に大欠陷があります。


  この“反省抜き" の「被害者意識」「報復意識」がある限り、

  中國は、正常且つ健全な發展ができません。

  周邊諸國と トラブルが頻々として起きませう。