> コラム > 伊原吉之助教授の読書室
伊原註:世界の話題(266)/『關西師友』平成24年2月號 12-13頁に掲載
台灣に總統選を視察に行つたとき仕入れた情報で二ヶ所訂正してあります。
そして、大幅増補しました。
日 米 で 守 る 台 灣
米國のアジア回歸と台灣
昨年、米國の「アジア回歸」が明かになりました。
雜誌『選擇』は「新オバマ・ドクトリン」と言ひ、その象徴を濠洲議會での演説と、ポート・ダーウィンへの海兵隊駐留に求めました。
そして今年(2012年) 1月5日、オバマ大統領が「新防衛戰略」を打出しました。
この動きは、米國の、日本を捲込んだ台灣防衛と關聯してゐます。
伊原註:第一に、ソ聯解體後の日米安保見直しの一連の動きがあります (以下の年表參照)。
目標をソ聯から中國に移したのです。
1992. 7. クリントン政權「東アジア戰略報告」: 經濟再建を優先
今世紀末まで 3段階に分けて アジア駐留米軍を縮小
1992.11.24 米、フィリピン に百年來維持した スービック基地を返還 → 中國海軍が南シナ海に進出
1995. 2.27 米國防總省「東アジア戰略報告」(ナイ・イニシアティヴ):日米安保の再定義
東アジア に米軍前方展開兵力10萬を維持/その基礎=日米安保
1995.11.28 新防衛計劃大綱を閣議決定 (村山内閣)
1996. 4.17 日米安全保障共同宣言──21世紀に向けての同盟へ: クリントン大統領・橋本首相
「世界の平和と地域の安定並びに繁榮に深甚且つ積極的な貢献」を再確認・日米同盟延長へ
日本がアジア太平洋地域の軍事行動に於て對米協力の用意ありと アジア/中國に宣言
1997. 9.23 「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン):日米同盟の再定義
2000. アーミテージ・レポート
2004. 防衛大綱:2001年の 米中樞同時テロ を受け「多機能で彈力的な實效性ある防衛力」整備を謳ふ
2007. IIアーミテージ・レポート=The U.S.-Japan Alliance: Getting Asia Right through 2020
2010.12.17 新防衛大綱・中期防衛力整備計劃、閣議決定:「動的防衛力」に轉換
米國の台灣防衛策については、以下のやうな流れです。
抑 (そもそも) の發端は2006年10月、台灣人林志昇が「台灣の國際地位と台灣人權保護」を求めた
米國聯邦裁判所への提訴に始ります。
米國政府に、台灣の主要占領權國として台灣民政府の設立責任を求めた裁判です。
林志昇集團 (グループ) は2008年2月、その受皿として
台灣民政府 Taiwan Civil Government
を設立しました。台灣平民政府とも言ひます。
2009年10月、米聯邦高裁の判決──
「64年來、台灣人は無國籍であり、國際社會で認められた政府は無く、
「人民は今なほ政治煉獄中で暮してゐる」
これは、2004.10.25, コリン・パウエル國務長官が北京大學の講演で述べた言葉 「中華民國も台灣も主權獨立の國家ではない」と、2007.8.30, 國務省アジア擔當上級次官 デニス・ウィルダー が同じく「台灣も中華民國も主權獨立の國家ではない」と述べた言葉に連なるものである。
台灣は中華民國ではなく、台灣の國際的地位は未定と言ふ譯です。
其後、米國政府は台灣民政府を認めます。
そこで台灣民政府は2010年7月、米國の首都ワシントンに
「台灣民政府駐米代表處」を設置しました。
そして同年9月8日、ワシントンの四季飯店で代表處設立祝賀會を開催します。
これに國務省・國防總省・國家安全省・司法省・CIAが 7人の官員を派遣しました。
内譯=國務省 2名、國防總省 1名、司法省 1名、CIA 2名、國家安全局 1名。
米側出席の貴賓は約100人、台灣民政府側の政府人員が約80人(台灣民政府のホームページ參照)
伊原註:台灣民政府のホームページは、usmgtcg.ning.com で入れます。
台灣民政府の同年9月25日附公告によりますと、
「米國の行政單位は台灣の國際的地位を示す二枚の寫眞を渡した。
「その一枚はオバマ大統領の就任式の寫眞、もう一枚が日本の皇居二重橋の寫眞」
日本が潜在主權を保持してゐるからです。
台灣民政府はこの二枚を執務室に掲げてゐます。
台灣の再占領を企圖する米國
扨 (さ) て、米國の以下の動きを御覧じろ。
(1)台北市内湖に建設中の二萬坪もの米國代表處の借用期限は99年+99年と、半永久的です。
然も敷地内に 800名の海兵隊員の宿所がある。將來は 2500名に増やす予定とも言はれます。
(2)台中の清泉崗空軍基地・花蓮の佳山空軍基地・台南の左營基地が米軍の管轄下に入つた。
米軍の最新鋭戰鬪機F22が駐屯してゐる。
尖閣諸島附近で實施した日米軍事演習に參加したF22は台灣から飛んで行つたのである。
(3)昨年10月30日に安倍元總理を台北松山空港と東京羽田空港の直行便開通式に招いたのは
米國側である。馬英九が松山空港と上海空港を結んで「中國の國内便」と稱したため、
米側が羽田とも結ばせたのである。
伊原註:『関西師友』誌上にて
「不滿な馬英九は、安倍元總理に公用車を手配せず、タクシーを使はせた」
と書いたのは、台灣の新聞記事を見て引用したのですが、誤りでした。
台灣の外交部の人から聞いた所では、
安倍さんが「公用車はもう要らない」と歸したあとで、
民進黨本部に行くことになり、街頭でタクシーを拾つて行ったのださうです。
(4)米國は 1950年 − 1980年間の台灣に於る米國人の足跡を辿る寫眞展を
高雄・台南・台北の三大都市で開催した。
これは台灣の「主要占領權國」である米國の地位を再認識させるためである。
(5)昨年の東日本大震災發生直後、駐日米國官員とその家族の日本退去を實施したが、
彼らは一先づ台灣に飛んだ。その受入は米國在台協會が取り仕切り、
馬英九政權は全く關與させて貰へなかつた。
伊原註:これも、上記外交部の官員によれば間違ひださうです。
外交部の人員がちやんと關與してゐた由です。
以上の事實は何を意味するでせうか?
米國は、アジア回歸に先立ち、台灣を確實に保持しようとしてゐるのではないでせうか?
台灣を占領した中華民國政權は、平和條約締結までの管理者に過ぎなかつたのに、領土化した。
米國は黙認したが、其後中共政權樹立により中華民國政權は「流亡政權」となつた。
それでも冷戰中は「中國を代表する政權」なる虚構を維持したが、
米國が中共政權を承認すると虚構は崩れた。
米國は台灣關係法で繼子(ままこ)の台灣を守らうとしたが、
軍擴で自信をつけた中共政權の興隆を見て、
今や日本と共に台灣の直接防衛に手を打ち始めたのです。
但し、米國にはいろんな動きがありますから、これは一つの可能性に過ぎません。
ニクソン・キッシンジャー以來の
「台灣を中國に渡して米中關係を改善せよ」
といふ論者も少なからず居ます。
台灣防衛の線を強化するには、日本政府が積極的に動かねばなりませんが、
今の所、これが曖昧模糊としてゐます。
(2012.1.4/1.19増補訂正)
參考までに、日本の「新防衛大綱」の新聞記事を載せてをきます。
【新防衛大綱】
2010.12.17 新防衛大綱 中國に懸念 機動對應/南西諸島 備え強化/「動的防衛力」に轉換 (『日經』夕刊12.17,1面):政府は 17日午前の安全保障會議と閣議で 新防衛計劃の大綱と 中期防衛力整備計劃 (2011〜15年度) を 決定した。新大綱は 軍備増強を續け、海洋進出を強める中國を「地域・國際社會の懸念事項」と位置付け、自衛隊配備が手薄な南西諸島や島嶼部の防衛強化を打出した。その上で テロ や 北朝鮮への對應も含め、多様な事態に機動的に對處する「動的防衛力」の構築を掲げた、云々
防衛大綱別表に定める主要裝備などの推移
| 76年大綱 | 95年大綱 | 2004年大綱 | 新大綱 | |
| 陸上自衛隊 | ||||
| 編成定數 | 18萬人 | 16萬人 | 15萬5000人 | 15萬4000人 |
| 戰 車 | 1200輛 | 900輛 | 600輛 | 400輛 |
| 火 砲 | 1000門 | 900門 | 600問 | 400門 |
| 海上自衛隊 | ||||
| 護衛艦 | 60隻 | 50隻 | 47隻 | 48隻 |
| 潛水艦 | 16隻 | 16隻 | 16隻 | 22隻 |
| 作戰航空機 | 220機 | 170機 | 150機 | 150機 |
| 航空自衛隊 | ||||
| 作戰用航空機 | 430機 | 400機 | 350機 | 340機 |
| うち戰鬪機 | 350機 | 300機 | 260機 | 260機 |
2010.12.17 新防衛大綱 閣議決定 (『産經』12.18,2面):政府が 17日 閣議決定した新たな「防衛計劃の大綱」と中期防衛力整備計劃は、平時からの情報収集強化と事態に即應する防衛態勢の構築を目指すもので、中國の海洋活動活?化や威嚇に加え、韓國 延坪島砲撃のような北朝鮮の挑發を踏まえれば妥當な防衛戰略と言える。ただ、米國との役割分擔を初め、盛込まれた内容の具体化を早急に進めなければ、新大綱は只の紙切れに過ぎなくなる。
| 新防衛大綱・中期防で自衛隊はこう變る | 南西方面の防衛態勢強化 | ||
| 現大綱・中期防 | 新大綱・中期防 | 與那國島に陸自沿岸監視隊を配置 | |
| 陸上自衛隊 | 島嶼部への地對艦誘導彈の展開訓練 | ||
| 自衛官編成定數 | 15萬5000人 | 15萬4000人 | 移動警戒レーダーを島嶼部に展開 |
| 戰車 | 600輛 | 400輛 | 那覇のF-15部隊を 2個飛行隊に増強 |
| 海上自衛隊 | 早期警戒機 E2C の 整備基盤を確保 | ||
| 潛水艦 | 16隻 | 22隻 | |
| MDイージス艦 | 4隻 | 6隻 | |
| 航空自衛隊 | |||
| 新戰鬪機 | 7機 (未調達) | 12機 | |
| PAC3部隊 | 3個高射群 | 6個高射群 | |
■中國と北に重点:
「北の羆を檻で囲っていたのが基盤的防衛力、今度は神出鬼没な洗熊に對處する必要がある」。防衛省幹部は、東西冷戰期から維持してきた「基盤的防衛力」から「動的防衛力」構築に轉換する理由をこう説明する。顯在化した洗熊の脅威が中國の海洋活動だ。東シナ海から太平洋に海軍艦隊を進出させたほか、尖閣諸島と東シナ海のガス田周辺に海洋調査船や 漁業監視船を送り込んだ。尖閣諸島沖での漁船衝突事件では高圧姿勢を強めた。「漁民」を裝った民兵を尖閣に上陸させる作戰を展開するのではとの懸念もある。北朝鮮も危険な洗熊だ。新大綱は「沿岸部での潜入阻止」「重要施設の防護」に踏込んで記述し、北朝鮮の特殊部隊による潜入や原發テロへの對處を重視する姿勢を打出した。
■「目」と「耳」集結:
これらの脅威に對應する上で重要なのが平素からの情報収集・警戒監視・偵察活動 ISR だ。とりわけ南西諸島には陸海空三自衛隊の「目」と「耳」を集結させ、周辺海空域の監視能力を高めることが焦眉の急となっている。沿岸監視隊と移動警戒レーダーを配備するほか、低空で侵入する航空機を探知できる E2C早期警戒機も展開。潛水艦を 22隻に殖やすのも、南西諸島周辺で中國海軍艦艇の動向に睨みを利かせるためだ。「常續性」と「間斷なき對應」も新大綱の キーワードだ。尖閣占領シナリオ や 特殊部隊の潜入は「平時か有事か」「犯罪行為か軍事行動か」の判斷がつきにくい。そのため「常に監視を續け、事態の推移を見極めて行く必要がある」(自衛隊幹部) と指摘される。日米共同對處も重要性を帶び、新大綱は日米同盟について「計劃檢討作業の深化」を特記した。「中國と北朝鮮の脅威に反映させる プロセス を繰返して行く」(同) ことが底意にある。「アジア太平洋地域に於る協力」の項目を新設したのも特徴で、韓國・濠洲・ASEAN・インド との 協力強化を明記した。東シナ海のみならず、南シナ海や 太平洋へと 活動範圍を擴げる中國を抑えるため、日米同盟を「要」に扇を擴げて行く米戰略と歩調を合せるものだ。
■政局より政策を:
最大の焦点となっていた武器輸出三原則の見直しは先送りされた。菅直人首相は 11.16 の 安保會議で戰鬪機などの國際共同開發への參加を可能にするための三原則の緩和案を容認。「見直しは既定路線」(防衛省幹部) との受止めも擴がった。しかし首相は 12.に入り、方針を 180度轉換した。捩れ國會で連携を期待する社民黨の「日本が死の商人になる」(福島瑞穂黨首) との暴論に膝を屈したためだ。大綱は概ね 10年先の安保環境と防衛力整備を見据えて策定する。政府内では「國家十年の計より目先の國會運營を優先させた ダメージ は 計り知れない」(高官) との批判が渦巻いている。
中國猛反發 (北京=川越一『産經』12.18,2面) :中國外交部の姜瑜報道官は 17日、日本政府が中國の軍事力を懸念事項とする新たな「防衛計劃の大綱」を決定したことについて、「個別の國家が國際社會の代表を氣取って、無責任に、中國の發展に對してとやかく言う權利はない」と批判する談話を發表した。
→新防衛大綱、戰略を轉換/脅威睨み「選擇と集中」 (『日經』12.18,1面):
→新防衛大綱:中國牽制 鮮明/海空を重視/南西シフト/豫算限られ效率配置 (『日經』12.18,3面):
→中國、急速に軍備増強/豫算膨脹・性能向上・範圍擴大/日本の新大綱に反撥 (北京=佐藤賢『日經』12.18,3面):
→西原 正 (平和・安全保障研究所理事長)「轉換、10年遅い」(『日經』同上):
→新防衛大綱の要旨 (『日經』12.18,4面全面):