「 愚妻 」 は 「 愚かな妻 」 か?

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       「 愚妻 」 は 「 愚かな妻 」 か?


  『 産經新聞 』 6月19日付朝刊に 「 今週の表現 」 と題して 「 すみません 」 に相当する英語の使い分けが記事になっていました。"I'm sorry" と "Excuse me"の使い分けです。

いつも 「 英語表現 」 の勉強させて貰い、感謝して読んでいるのですが、文中、 「 愚妻 」 を "a bad wife" と訳している箇所があって、この執筆者、早稲田大学教育学部教授も国語辞書の犠牲者だと気付きました。


日本の国語辞書は戦後、 「 愚妻 」 =愚かな妻/妻の謙称、と解説してきました ( 例えば久松潜一監修 『 新潮国語辞典 』 542頁 ) 。どちらも間違いです。戦前、普通に使われてきた日本語が、どうして戦後、誤解されてしまうのでしょうか???


謙称は、自分に関してだけ使われます。他人である妻には使われない。妻は他人だからこそ結婚できたのでしょう。

愚とは自分のことです。 「 愚なる自分 」 の妻が 「 愚妻 」 、 「 拙なる私 」 が書いた著書が 「 拙著 」 なのです。だから 「 愚妻 」 を英語に訳せば、"my wife" 以外の訳は出てきません。戦後間もなく読んだ本で、英文学者の著者が 「 これが私の妻です 」 と紹介するのに "This is my foolish wife." なんて言えない、と書いていたのを読んで、 「 夫子自身が "foolish"じゃないか! 」 と思ったことを想起します。


日本文化は戦後、大きな断絶を経ました。当用漢字・現代仮名遣いが戦後育ちに戦前の書物を読めなくしてしまった。私は昭和20年に旧制中学4年生ですから、いまでも戦前の書物を読むのに何の不自由も感じませんが、私の2学年下の後輩は、もう現代仮名遣いでないと読めないのです。


 子供たちに漢字の正字を教え、歴史的仮名遣いを使えるように教えることが、日本文化を守る上で重大事だと思います。

( 平成19年6月20日記 )