シンガポール の軍事力と、それへの コメント-伊原教授の読書室

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    シンガポール の軍事力と、それへの コメント




伊原註: 「 台灣の政治改革年表・覺書 」 を今も私は作り續けてゐます。

        台灣觀察のため、東アジア國際情勢の中で台灣がどう動いてゐるかを把握し續けねば

        ならないからです。

          ( 流れを摑むためには、重要な出來事の日誌を作り續けねばなりません )


        6.12 の 『 産經新聞 』 が、シンガポール の軍事力整備について記事を載せました。

        フィリピン の淺はかさと對比しての シンガポール の賢さの解説です。

        書寫しながら、私は次第に腹が立つて來ました。

        シンガポール の賢さを讃へる前に、米國の淺はかさに注目して置くべきではないか。

        世界をひつかき回し、不安定にし、多くの人を殺してきたのは米國ではないか。

        それを皆さんに考へて戴くため、下記を アップします。





2011. 6.11  シンガポール の 軍事力:中國の脅威が問ふもの

  ( シンガポール支局長 青木伸行 『 産經 』 6.12,7面 ) :


( 1 ) 東南アジア諸國の軍事力は 基本的に 國内の治安對策に對應するもの。

    さうした中にあつて シンガポール は 違ふ。

    「 相手に 『 攻めぬ方がいい 』 と思はせるだけの軍事力を備へている 」 ( 東南アジア軍事筋 ) 。


( 2 ) 生殘り への“保險金" = シンガポール は GDP の 5%

    國家預算の 1/4 の 95億ドル ( 2011年度 ) を國防預算に費やしてゐる。

    フィリピン の 20億ドルを 大きく上回る。

    國防費のGDP比を 2015年迄に 1.5% に引上げたい インドネシア や、

    現行 2% 程度の マレーシア と比べ

    シンガポール が いかに國防力強化に力を入れてゐるかが 判る。


( 3 ) 裝備概觀=潛水艦 5隻、フリゲート艦など 艦船41隻、F16D戰鬪機初め

    航空機 106機、對艦ミサイル ハープーン に 戰車 546台……。

    東南アジア で 最も早く 早期警戒機 E-2C を導入するなど、裝備近代化を進めてきた。

    かうした軍事力は 海洋國であり、國土が東京23區より 稍大きい程度の シンガポール には

    十二分と言へる。


( 4 ) 手厚い軍事力整備を可能にしてゐるのは 14.5% ( 2010年 ) といふ高い經濟成長率である。

    金が無ければ國防も儘ならぬ。

    そして何より 「 抑止 」 を政策の柱に掲げるなど 國防意識の高さを指摘できよう。

    國家預算に比べて膨大な國防預算は 1965年以降の獨立を守り、

    「 經濟國家 」 として生殘るための保險金なのだ。


( 5 ) シンガポール は また 米國の 「 主要な安保協力 パートナー 」 として

    アジア太平洋地域に於る 米軍プレゼンス を 支へてもゐる。

    米海軍の艦船は シンガポール の海軍基地などを使ひ、

    中東などに於る 「 有事 」 に 迅速に對應する態勢の一助となつてゐる。

    中國の海洋覇權擴大の動きに伴ふ 南シナ海に於る 緊張の高まりを受け、

    米軍の軍事施設使用が強化される可能性も 指摘されてゐる。


( 6 ) 一方、シンガポール空軍の F15SG、F16戰鬪機が それぞれ米アイダホ、アリゾナ州に常駐し、

    飛行訓練を行つてゐることは、餘り知られてゐない。

    南シナ海での中國の覇權擴大の動きに今、最も拙いと頭を抱へてゐるのが フィリピン であらう。

    國防預算に多くを割く 「 金缺 」 フィリピン は フリゲート艦は 1隻。殘る 64隻は哨戒艇。

    航空機は 4機のみで 戰鬪機なく、脆弱極まる。

    フィリピン  タイ は 東南アジア にあつて 米國が 「 同盟國 」 と稱ぶ國である。

    東西冷戰時代、フィリピン は 米軍の重要な中繼補給基地。

    スービック海軍基地には ヴェトナム戰爭で 米軍が投下した爆彈の多くを貯藏し、

    この基地で 艦船に補給修理を施した。

    東西冷戰期の フィリピン米軍基地の意義は ソ聯が陣取つた ヴェトナムの カムラン灣も見据えつつ、

    アジア太平洋地域に於る 米軍の プレゼンス を 維持し、

    ソ聯との勢力均衡を圖りつつ 後方支援機能を確保した。


    米國が スービック海軍・クラーク空軍兩基地を撤退した理由:

    第一:ソ聯の脅威の消滅、

    第二:それに伴ふ 米國の國防預算・基地縮小の動き、

    第三:フィリピン側の基地使用料吊上げ、

    第四:米軍撤退が 主權恢復の象徴と捉へる フィリピン の 一部世論

    など。


( 7 ) 不可欠な米軍の存在

    だが 最重要要因は米國が フィリピン の基地機能を 他國に分散・代替できると考へたことだつた。

    その一環で シンガポール へ移したのが、第七艦隊の後方支援機能である。

    東西冷戰時代に フィリピン は ソ聯・中共から攻撃を受ける可能性なしと考へてゐた。

    しかし スービック海軍基地から米軍が撤回して 20年。

    今や 南シナ海で中國の脅威が日増しに増大中。

    米比兩國は現在 「 訪問米軍に關する地位協定 」 VFA, 「 相互補給支援協定 」 MLSA を 軸に

    同盟關係を維持してはゐる。

    フィリピン が 脆弱な自國の軍事力では 單獨防衛できぬ自明の事實に氣付いたからだ。

    それでも今後 中國に 對抗するには、より強固な同盟關係が求められよう。


( 8 ) 教  訓 = シンガポール と フィリピン

    その生き方は異なれど、

    共に アジア太平洋地域に於る 米軍 の プレゼンス の 重要性を物語つてゐる。

    日本も、その點を改めて 膽に銘ずるべきだらう。




伊原コメント:それと同時に、米國の戰略的思慮の 「 淺はかさ 」 も 「 膽に銘ずるべきだろう 」


    第一、ソ聯を牽制するため中共を育てた米國の 「 戰略的思慮 」 の 「 淺はかさ 」 !!!

          目先のことしか考へてゐない。


    第二、その前に、東アジア の安定にとつて不可欠の日本を終始一貫 壓迫し續け、

          東アジア動亂の根源 「 支那 」 を擁立し續けた米國 ( TR/Wilson/FDR ) の 淺はかさ!

          日本と聯繋してゐれば、基礎重要物資を米國からの輸入に依存し續けた日本は、

          東亞安定の礎を築いて、米國の世界覇權を支援してゐた筈なのに!


    追記 ( 1 ) :對米協調を機軸にしてゐた原敬の暗殺が、日本の挫折の始りかも知れない。


    追記 ( 2 ) :幣原外交が、對英米協調外交を挫折させた元兇ではないか。

              大正デモクラシーの“輕佻浮薄" が、昭和の日本の挫折の始りのやうに思へる。


  膽に銘ずる教訓:人類は淺はかである。目先のことしか考へない。

                  滅びて當然である。

                  滅びたくなければ、必死で 「 生き延び 」 の努力をせよ。

                  さて、我等はいかにして生き延びるか???


( 平成23年/2011年 6月16日 )