台灣の運命握る米國

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伊原註:下記は 『 關西師友 』 四月号掲載の 「 世界の話題 」 No244です。





台灣の運命握る米國




      米台關係に觸れぬ袁紅冰


  あと 2年で台灣を統一する中共總書記胡錦濤の併呑構想を暴いた──

と稱する袁紅冰の 『 台灣大劫難 』 は馬英九政權登場後の台灣の動きとよく符合してゐて、

これは 「 中共の企圖 」 の紹介として出色のものと思ひ、前號で紹介しました。


  しかし、その後台灣の知友からいろいろ話を聞くと、

  これは袁紅冰が自分の知識を總動員し、賣るためにまとめたものらしいのです。


  先づ、袁紅冰と二時間みつちり話した楊嘉文さんの話によれば、

  本書はなかなかよく書けてゐるが、使つてゐる中共資料は本物ではない。

  袁紅冰は學者といふより詩人なのだと。

  では空想家?


  台灣が中共に併呑されることを望んでゐないのが救ひだが、

  自分の本が台灣で賣れることを望んでゐる由。

  では賣文家?


  國際關係に強い友人によれば、袁紅冰の弱點は米國を無視してゐる點ださうです。


  戰後の國際關係を造つたのは米國。

  台灣が米國の保護下にあるのは、去年 8月の颱風水害時に逸早く米軍が驅付けたことからも判るだらう。

  今の中共首腦は、常に米國の顔色を窺ひつつ政策を決めてゐる。

  台灣併呑を米國が許さぬことは百も承知してゐる筈だと。


  この友人曰く、

  米國は日本弱體化のため、占領した韓國に反日を刷り込んだ。


  沖縄も反日 ( 反本州 ) にした。


  台灣は反日の蔣介石政權に占領させた。

  だが外省人政權の壓制が台灣人の親日感情を延命強化し、

  李登輝と陳水扁の登場で親日が公然化したため、

  反日親米派の馬英九と取替へた。


  台灣には、親日派と親米派はゐるが、親中派はゐない。

  台灣で中國の影響力は限りなくゼロに近いのだよ、と。


      中國に台灣併呑能力なし


  また曰く、

  中國人は阿片戰爭以來、愛國心なく、團結したためしのない人達である。

  阿片戰爭以來、支那事變に到るまで外國に負け續けたではないか。

  魯迅が 『 阿Q正傳 』 で描いたやうに、彼らにあるのは演技と騙しの能力のみ。


  朝貢は、利益で釣つて遠路遙々北京を訪問させた。

  釣られてくれる相手があつて、初めて彼らの意圖は達成できる。

  相手が信じてくれねば、騙しは通用しないよと。


  袁紅冰が 「 紹介 」 した中共の台灣併呑計劃なるものは中國人の 「 妄想 」 だ。

  米國は、 「 中共の脅威 」 の下で台灣に 「 防禦兵器 」 を高く賣り續けたいのだ。

  だから米國は台灣を手放さぬし、中共の併呑も許さない。

  台灣が反日になれば獨立を許すだらうが、親日なら 「 現状維持 」 を續ける。

  台灣は安保上、米日に頼つて生き續けるほかない。

  中國と經濟貿易關係が深まつても、併呑などあり得ないと。


  疑問がひとつ、

  米國がそれほど頼りになるのでせうか?


  私は、本書は中共の願望をほぼ忠實に辿つてゐると思ひ、

  本書に描かれた中共の企圖を紹介して、

  台灣も日本もそれに備へて自強を圖る必要があることを讀者に訴へたかつたのですが、

  この知惠者によると、

  そんな 「 妄想 」 を信ずるのは、すでに相手の術中にはまつてゐるのださうです。


  私達の目の前には、日台はもとより、米國まで中國に靡いてゐるかに見える 「 現象 」 があります。

  ですがこの知惠者は、自由民主國がさう簡單に操れるかと言ひます。


  清末以來、シナ人は近代國家形成に失敗してきた。

  今も内蒙・新疆・チベットに見られるやうに、連中には強壓政策しか能がないのだと。


  3月 6日、 「 日本李登輝友の會大阪府支部設立記念講演會 」 で講演するため來日した

  台灣獨立建國聯盟主席黄昭堂さん曰く、

  「 中國大陸に百萬も百五十萬もゐる台商はみんな反中です。

  「 台灣人もいろいろ鍛へられて狡いですよ、

  「 さう簡單に中國には靡きません 」


  現象の奥にある 「 本質 」 を見抜かねばなりません。

  そして、日台中關係の鍵が、米國の戰略意圖にあることは、確かです。

( 10.3.9/3.30補筆 )