危機を自ら招き寄せた日台兩國

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伊原註:以下は、 『 アイデンティティ 』 第42號 ( 平成22年2月1日發行 ) 2面掲載の文章です。

        讀書室掲載に當り、ほんの少し増補しました。




    危機を自ら招き寄せた日台兩國




              衝動的選擇をした台灣と日本の有權者


  2008年に、國會議員選擧 ( 1月 ) と總統選擧 ( 3月 ) で、台灣は自殺的選擇をしました。

  台灣人を劣等と見下してゐる在台シナ人勢力に壓倒的支持を與へたのです。

  台灣人の知人は、 「 台灣人の奴隷根性! 」 と憤慨しました。

  そして、これで 「 あと四百年は自前の政權を作れなくなつた 」 と嘆きました。

  台灣の有權者は、なぜこんな選擇をしたのでせう?


  中共の手先を務める統一派勢力が、傘下のメディアを通じて、

  「 民進黨台灣人政權は無能で腐敗 」 といふ謀略宣傳を撒き散らし、

  これに台灣の有權者がうまうまと乘せられ、

  陳水扁率ゐる台灣土着派の民進黨政權にそつぽを向いたからです。


  腐敗だけでも、國民黨の方が民進黨より桁外れに大きいと誰もが熟知してゐるのに──


  あろうことか、その1年後の2009年8月、

  今度は日本の有權者が、同じやうな自殺的選擇をしました。

  民主黨がどんな勢力なのか、ろくに知りもせずに、

  ひたすら目先の自民黨政權への愛想づかしだけで、民主黨を壓勝させました。

  民主黨が果して期待に應へる政黨かどうかなど、誰も調べたりしてゐません。


  有權者の大半は、理性的判斷でなく、目先の氣分で投票します。

  その 「 氣分 」 をつくるのはマスメディア、特にテレビです。

  小泉チルドレンや小澤ガールズの大量當選は、その證據です。


  自分たちを蔑視する勢力に政權を渡した台灣の有權者は當然、

  そんないい加減な選擇をした 「 報ひ 」 を受けました。

  頼みの經濟は伸びず、ひたすら“宗主國”シナに頼る對中急接近が行はれ、

  そこにつけ込む中共政權による台灣併呑の危險が迫つて來ました。


  政權の當事者、馬英九總統の人氣は急落しました。

  とりわけ、颱風八號で起きた大水害の救災處理不手際で、

  馬總統と國民黨内閣への非難が高まりました。

  「 汚職總統が去って無能總統が來た 」 等々。


  然しながら、そんな無能總統を 「 壓倒的多數で選んだ 」 自分達の 「 責任 」 を、

  台灣の有權者が自覺し、反省している風はありません。

  專ら政權を批判し非難するだけです。

  有權者にとつては、 「 惡いのは皆他人 」 なのです。


  「 民主主義とは、國民が國の主人公になること 」 であり、

  「 全責任を主人公である國民が引受けなくてはならない體制 」 なのです。

  ( 中西輝政 『 日本の 「 實力 」 』 海龍社、平成21.6.29, 126頁 )


  中西輝政曰く、

  「 これ ( 主權者の一員になること ) は、企業の株主になる程度の責任ではありません。

  「 有權者の責任は、國を守るといふことであり、その責任の重さは無限です 」 と。

  だから、普通の民主國は、國民に兵役の義務を課してゐます。國民共同體を守るため、命を捧げることを求め、それを崇高な行爲と讃へるのです。


  でも、投票する時、そこまでの責任感は、普通の有權者は感じてゐますまい。


  しかし、それでは民主主義は機能しません。

  國民がこれほど無責任なら、憲法から 「 國民主權 」 條項を削除すべきであります。


              シナに取込まれる台灣と日本


  阿片戰爭・ペリー來寇以來の東亞情勢を概觀すれば、大陸勢力と海洋勢力の鬩ぎ合ひです。

  19世紀後半=獨露對英米

  20世紀後半=ソ中對米英

  21世紀前半=中對米……の筈ですが、

  米國は金儲けのため中國と馴れ合つてゐます。


  中共當局者は阿片戰爭以來の屈辱を、世界の大勢に疎かつた自分達の責任とは考へません。


  專ら相手が惡いと決め込み、復讐心に燃えてゐます。

  だから、軍備充實 ( 核武裝+海空宇宙制覇 ) と諸國の分斷各個撃破戰略を着々と進めて居ります。


  第一列島線 ( 本州・九州・沖縄・台灣・フィリピン ) は既に大半を取込みました。


  現在の目標は、第二列島線 ( 伊豆諸島・小笠原諸島・グアム ) の取込みです。


  そのため不可欠なのが空母機動部隊なのです。

  だから、國産空母二隻建造・空母機動部隊三群保持に踏切りました。


  この中共戰略を知つてか知らずか──

  台灣も日本も無防備の儘、易々と中共に取込まれつつあります。


  台灣も日本も、中國を宗主國とする朝貢國になりかけてゐます。

  馬政權は、内閣改造に當り、新行政院長呉敦義を就任直前、香港に派遣し、中共の認可を得たやうです。

  これが事實なら、正に台灣特別行政區の首長任命承認式です。

  つまり、台灣は正に中共政權の特別行政區になりかけてゐるのです。


  小澤さんが六百名もの一族郎黨を引連れて北京詣でをしたのも、正に朝貢です。

      ( 逆に習近平が去年12月、今上陛下の特例會見を求めたのは、天皇に朝貢しに來たのだ、

        と解釋する向きもありますが )


  鳩山内閣が沖縄の米軍基地問題をごたつかせて日米安保體制を空洞化しつつあるのも、中共の日米分斷・各個撃破戰略に乘りつつある兆しではないでせうか。


  この危機的状態を眺めつつ、何の動きもしないのが、台灣と日本の有權者です。

  それなら台灣と日本の有權者は 「 主權者 」 ではありません。

  謀略宣傳にいいやうに操られる衆愚でしかない。

  憲法の 「 國民主權 」 を返上すべきであります。


              國家再建への道


  戰後日本は、 「 日本無力化 」 の占領政策が祟り、國民は分斷され、孤立化しました。

  携帯電話の跳梁跋扈が示すやうに、今や日本國民は個々ばらばら。

  家庭も近隣社會も職場も、孤獨で孤立した無力な人が群れてゐるだけ。


  敗戰時の日本國民は、民間人殺戮の大規模空襲で燒出されても、自分で身の振り方を付けて生きて行きました。

  天皇主權の憲法下にあつた日本國民の方が、餘程自主獨立精神に富んでゐたのです。


  今は、大地震と言はず、電氣や水道・ガスが暫く止つただけで、

  みなさん、野垂れ死するのではありませんか?

  自分の生活基盤を專ら他人に頼り、生活資料 ( 水・燃料・食料・衣料其他 ) の自己調達能力がゼロに近いからです。


  他人に手取り足取り助けて貰はぬと生きて行けない、

  幼兒の如き弱者になり果てたのじやありませんか?

  ブラックボックスだらけの 「 假想現實 」 の真只中に生きてゐて、 「 眞 」 「 僞 」 の區別をつけ難い。

  現代人は、殆ど“幻想" の中で生きてゐるに等しいのです。

  そして、その“幻想" が恰も堅固なものであるかの如く、疑ひもせずに生きてゐる。

  ( 脆弱な建物でも、倒れるまでは、堅固に見えるものです )


  戰後、國家存立の基本である農業・教育・國防・情報を疎かにしてきたつけで、個人が限りなく無力化しました。


  日本が滅びたくなければ、なすべきことは只一つ、國民共同體の再構築です。


  系として、なすべきことが幾つかあります。


  日本弱體化のため陰に陽に聯繋プレイをしてゐる 「 反日勢力 」 の一掃。

  彼らは日本の權力の中樞部分に浸透してゐて、餘程腰を据ゑてかからねば驅逐出來ません。

  公務員の忠誠宣誓と、秘密保護法制定が手始めです。

  青少年の心身の鍛錬がその次です。


  そして國策の基本が、先に述べた通り、以下の四つの再建です。


  農業=食糧自給の達成 ( 危機には貿易は機能しない )

  國防=國軍創設・核武裝 ( 天ハ自ラ助クルモノヲ助ク )

  教育=日本國民共同體を支へる人材の育成 ( 勇者・強き者を育てること )

  情報=内外敵對勢力の意圖及び動向の察知・對策立案・對策の實行


  日本が國家の成すべき基本を疎かにしたのは、ノモンハン事件以來です。

  ソ聯を恐れて戰場整理 ( 數千の戰死者の遺骨回収 ) を放棄した儘現在に到つてゐます。

  大東亞戰爭の戰場整理 ( 百十萬以上の戰死者の遺骨回収 ) もやつて居りません。


  つまり我國は、大東亞戰爭の結末をつけてゐないのです。

  これでは今後、日本國家は國民に 「 國民共同體を守るため生命を捧げよ 」 と命令できません。

  日本國家は日本國家存續の基本條件を缺いてゐるのです。

  かういふ國家存立の基本に關る重大事が戰後疎かにして來たのは、國家存續の意志なきものと判定されても已むを得ません。

  私達は、安穩に暮す資格も條件も缺いてゐるのであります。


  この國家存立の根本を正さぬ限り、日本は確實に滅びます。

  外國がちやんとやつてゐることを、日本だけやつてゐないからです。

( 2009.12.19執筆/2010.2.5 補筆 )