中國の屬國化進む台灣

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    中國の屬國化進む台灣


伊原註:10月23日、台灣報告をしますが、その資料をここに掲載します。

      『 玉山周報 』 は、民主進歩黨政權の副總統だつた呂秀蓮が創刊した週刊誌です。


     慌ただしく譯したものですが、台灣の馬英九中國國民黨政權が内閣改造をした際、

     新行政院長の任命について中國にお伺ひを立て、その認定を得て正式任命した、

     ──といふ話です。

     これが事實なら、台灣は既に半分くらい、中國の屬國になつてゐることになります。




   王崑義 ( 台灣戰略學會秘書長・教授 )



       中國が呉敦義の行政院長就任を 『 欽定 』


       そのため呉敦義はわざわざ香港に出向き、


               投降して 『 就任 』 した?


原文題目= 「 中國 『 欽定 』 閣揆呉敦義/赴港 『 履新 』 輸誠? 」

    ( 本周熱門 『 玉山周報 』 2009.9.17〜23號,12-13頁 ) :


  中國國民黨は時に頗る賢く、また時に頗る愚かである。

  民主進歩黨立法委員が投げかけた疑問:

  行政院長呉敦義が主任内定後の 9.5, 土石流豫告體制視察のためと稱して秘かに香港に赴いた。

  香港を視察するなら、これまで時間がたつぷりあつた。

  それが、よりにもよつて、行政院長内定後の慌ただしい時にまたもや香港に行つた。


  民進黨立法委員に尻尾を掴まれると馬英九が救いの手を出し、土石流災害の視察に行ったと裏書してやつた。こんな話が信じられるか?


       爲何 「 冒險 」 到香港被抓包


  かくも敏感な時機にかくも敏感な事態について、呉敦義は なぜ かくも 秘かな行動をしたのか?

  土石流の視察より遙かに大事なことをしたのでなければ、この時機に そつと香港に行くほどの 「 冒險 」 をする必要があつたらうか?


  『 天下雜誌 』 が 9月に實施した意識調査:

  台灣民衆の 3/4 が 東西南北を問はず 「 中國恐怖症 」 にかかつてゐる。

  更に 7割以上の台灣民衆が國共の過度の往來を心配し、台灣の主權が賣り飛ばされたのでは? と氣にしてゐる。

  中國の 『 旺報 』 創刊号の意識調査でも 7割の民衆が中國を 「 譯が判らん 」 としてをり、國共往來に公開の透明性を求めてゐる。


  この意識調査は親青陣營メディアが 實施したもので、緑陣營は關係なしだから、イデオロ問題はない。

  逆に、中國メディアが 香港で 『 中國評論 』 の ネット 版が 呉敦義が行政院長になったことを公布したあと、彼を 「 四度に亙つて呉伯雄に伍して訪中し、二度、胡錦濤の晩の祝宴に連なつた 」 と持上げた。


  中國メディア は これで呉敦義就任後は兩岸關係が好轉し、脚光を浴びるとみた。

  これは、呉敦義が中國期待の行政院長人選であることを示すものではないか?


  承知しておくべきことだが、中國は 馬英九が ダライ・ラマの 來台・被災者慰問に同意したことを腹に据えかねてゐた。

  彼らは馬英九に直接ぶつけなかつたものの、馬英九の 「 政治互信 」 を疑ひ始めた。

  そこで馬英九にこれ以上望みを託すより、新人を發掘して馬英九を牽制するに如かずと考へた。

  これで對台政策は萬全を期せられると。


  問題は、中國と ツーカー で話せる人材は、馬英九が使はぬことである。

  王金平は中國と無縁だから話はうまく通じない。

  劉兆玄は行政院長就任後、中國に行けない。

  彼らには中國と繋がる線がないから、次善の人材を發掘せねばならない。

  そこで呉伯雄が四度訪中した時に同行し、胡錦濤とも二度宴会で同席した呉敦義に行政院長をやらせれば、馬英九の傾中路線が確保できるといふことになつたのである。


  從つて呉敦義は、中國が 「 欽定 」 した行政院長人選であり、台灣政界の誰もが豫測できぬ中から突然馬英九に抜擢されたのだ。

  その背後に大きな力が働いてゐた。


  呉敦義は國民黨内で 「 一匹狼 」 と認知されており、別に大きな政治実績がある譯でなし、目立つ有能さもなく、劉兆玄にとつて代るほどの取柄もなかつた。

  それでも背後の力が北京から來た以上、馬英九の意志を誰が變へられやうか?


       到香港去 「 履新 」 ?


  呉敦義の昇進に北京要因が働いてゐたのなら、彼が就任前に香港に行つたのも頷ける。

  周知の通り、香港でも マカオでも トップは就任前に北京で胡錦濤の祝福を受けねばならない。

  これは 慣例に留らず、中國の法規に明記された必要事である。

  香港や マカオの特區首長は表面上當地で選出されるが、北京の同意と支持なしには務まらぬ地位なのである。


  但し台灣の地位は微妙で、中國は台灣總統の人選を決める手段は持たぬが、 「 國共兩黨のパイプ 」 を通じて台灣の行政院長を 「 内定 」 できるのだ。

  「 内定 」 後、内定した行政院長候補は當然、慣例により北京の管理に應ぜねばならない。

  馬英九は、中國が不斷に送り出す甘い汁を吸おうと思うなら、行政院長が北京の 「 内定 」 を經る宿命から逃れられないのである。


  こういう情勢は何ら特別なものではない。

  米國は、台灣を統制するには國安會議秘書長を虜にせねばならぬと承知している。

  これで米國は東アジア の 安全を確保できるのである。

  だから 國安會議秘書長蘇起は屡々 ワシントン に詣で、米國の旦那に最近の台灣の安全政策の方向を報告しに行くのである。


  中國もこれを學んだ。

  彼らは直接蘇起を動かす譯に行かず、米國と台灣の情報を 「 共有 」 し、進んで台灣を 「 共同管理 」 することも出來ないが、蘇起の周邊人に手を伸ばし、蘇起の弟と妻を北京に來させて間接的に台灣の情報を得てゐるのである。

  但し蘇起の弟や妻の取込みは 「 頭隱して尻隱さず 」 で意圖が見え見えなので、民進黨がつつき出してからはこの遣り方を止め、新路線に切替へた。


  斷えず台灣を操作できるやうな信頼するに足る人物を探したのである。

  とりわけ馬英九が ダライ・ラマ の 訪台に同意してからは、この役目を演ずる人物には、台灣の情報を提供するだけでなく、台灣の政策動向を左右できる能力が期待された。


  台灣總統の周辺に在つて政策を左右できる人物となると、國安會議秘書長のほかには、行政院長系統となる。兩岸政策は表向き總統が握つてゐるやうだが、政策を執行するには行政院を通ずる。

  總統は大陸委員會に自分の意志を執行させるが、行政院長はこれを牽制できる。

  だから中國が台灣政府の權力を操作したければ、最も好ましい人選は行政院長となる。


  こう考へると、これまで中國は連戰・呉伯雄を取込み、 「 國共兩黨のパイプ 」 を通じて台灣の兩岸政策を操作してきたが、馬英九が黨主席を兼任すると、このパイプは周辺化の危機に瀕する。

  とりわけ、馬英九がダライ・ラマ訪台に同意した時、これに反對したのは國安會議秘書長蘇起只一人で、蕭萬長も呉伯雄もダライ・ラマ訪台に同意したといふ。

  この事態に必ずや中國は、これまで往來した國民黨要員は信頼するに足る友人ではなかつたとの疑念を持つた筈だ。

  そこで彼らとしては新規蒔直しをやり、 「 はぐれ鳥 」 型の要員を見つけて その人物を通じて兩岸政策の操作を考へるのが理の當然であらう。


  だが呉敦義は、行政院長に内定した人物でありながら、何でまた、北京の馬卒を演ずる氣になったのか?

  呉敦義は 「 はぐれ鳥 」 ながら、青陣營中の群雄が虎視眈々たる中、行政院長の寶座を仕留めた。

  彼が北京に忠誠を誓はなければ、恐らく半年と持つまい。

  これぞ、彼が半年内に内閣を改組すると 「 予防線を張る 」 談話を繰返す所以である。

  こんな言葉を吐かねばならぬほど、最後の最後に選から漏れる虞れがあり、さうなつてから幾ら悔んでも後の祭となる。


  逆に中國の方は、ダライ・ラマ訪台事件で馬英九に一杯食はされて以來、深刻な危機感を抱くに到つた。

  國民黨と前以て意思疏通した後、中國が政策決定過程を追究せずとも濟むやうに、國民黨も必ずある條件の下に對中譲歩するやうに、そしてこの條件とは行政院長の人選は自分らの同意を要するといふものであるべきだとして、彼らが台灣の兩岸政策の方向に影響できるやうにしたのである。

  この考え方の下に呉敦義は、行政院長内定後、香港に行って中國に 「 投降 」 したのは意外でも何でもない。


       呉敦義見了賈慶林? 習近平?


  呉敦義が行政院長を引繼ぐのに中共の 「 同意 」 が必要だつたとして、彼が香港に赴き中國の支持を得るため、誰に會つたのだらうか?

  中國の體制からして、呉敦義が香港に行けば、先ず 「 香港中聯辦 」 ( 中國 「 中央人民政府駐香港特別行政區聯絡辦公室 」 ) を表敬訪問した筈だ。

  この組織は 「 省部級 」 の單位であり、中國の港澳特區の最重要單位である。


  これまで彼らは香港のほか、台灣も重要交流對象だつた。

  だから彼らは屡々民進黨を含む台灣の各黨派人士を招いて非公開で座談してきた。

  實は 「 香港中聯辦 」 は座談招待の常連だつたが、殘念ながら 「 香港中聯辦 」 は緑陣營人士を招いて座談することに大いに努力したものの、多くの緑陣營人士は彼らが聽きたがる話ばかりしたので、彼らが座談會を通じて判斷した台灣事情は、實情とかけ離れたものになつた。


  このやうに 「 香港中聯辦 」 は台灣との重要な交渉機構の一つだから、呉敦義が香港に來ると、先づここへ挨拶に來ないといけない。

  呉敦義は既に 「 準行政院長 」 身分だから、彼が香港に來たら、中國は中聯辦の人員に接觸さすだけでは濟まず、必ずや北京から 「 國家の指導者 」 級の要人が來て彼を 「 支持 」 する筈である。


  中國は 「 集團指導 」 が基本體制である。

  呉敦義は行政院長に内定した人物なので、 「 國家の指導者 」 の資格を持つ。


  目下、中國で 「 國家の指導者 」 の資格を持つのは、今會期のメンバーでは、胡錦濤・呉邦國・温家寶・賈慶林・李長春・習近平・李克強の 7人。

  そのうち台灣と縁が深いのは國家主席の胡錦濤、國務院總理の温家寶、全國政協主席賈慶林 の 3人である。この 3人中では、胡錦濤を除くと、台灣事務に縁が深いのは賈慶林だ。

  從つて賈慶林が香港に赴き、呉敦義と會った可能性は排除できない。


  だがもし國民黨側が賈慶林が院長級に過ぎぬと思ひ、院長候補呉敦義に 「 支持 」 表明するのは職位がもつと高くないと納得しないやうなら、國家副主席の習近平を起用した可能性も排除できない。

  習近平は 2007年に 中共が召集した17全大會で 躍進した ダークホース である。

  習近平は國家主席の後繼と目されてゐた李克強を押退けて國家主席の後繼の座に就いた。

  だから台灣關係も彼の職掌となり、呉敦義と會つても不思議はない。

  從つて多分、呉敦義と香港で會つたのは、賈慶林ではなく習近平であらう。

  疑ふ人は、呉敦義に直接、私の推測が當つてゐるかどうか、訊いてみて御覧。


       呉敦義可能説了什麼話?


  呉敦義が香港で賈慶林か習近平に會つたとして どんな話をしたのだらうか?

  やたら推測せずとも判る。



  第一、就任後の話。


  MOU・ECFAを含めて兩岸交流の進展維持を保證した筈である。

  だから 呉敦義の就任日に台灣が MOUを調印すると傳ると、台灣の株式が 開幕早々 250餘ポイント跳上つた。

  終値は下つたものの、台灣投資家の MOU 調印に對する期待の大きさが窺へた。


  ( 伊原註:呉敦義が就任した 9.10 の 加權指數上昇分は 81.36 ポイント、9.11の 上昇分は 5.06 ポイント )



  第二、呉敦義は必ずや中國に 二度と ダライ・ラマ來台に同意するやうな事件は惹起せぬと誓つた筈。


  この事件發生當時、國民黨は急遽使者を北京に派遣して辯解に努めた。

  當時傳へられた使者は國民黨文傳會 ( 文化傳播委員會 ) 主任委員李建榮だが、彼の階層は極く低かつた上、連戰系の人材だつたので、馬英九の意見の代辯者には程遠かつた。

  そのため中國側は態度を保留した。


  そこで今回、呉敦義が行政院長内定者といふ高い身分で中國に保證したため、中國側は當然、喜んでその保證を受入れた筈だ。

  特に中國側が懸念する陳菊が高雄映画祭で疆獨 ( 新疆獨立 ) の指導者 ラビア・カーディル の記録映画を上映したあと、ラビア の 台灣訪問要請を退けられるかどうかにつき、中國は必ず呉敦義に絶對招請を認めてはならぬと要求した筈である。

  中國はまた、馬政權が引續き兩岸交流關係を維持することに安心した筈だ。



  第三、上記二件のほか、呉敦義は中國に阿扁への判決を 9月11日に言渡すと話したかも知れない。

  中國にとつて阿扁は頭痛の種の緑陣營指導者であつた。

  彼らにとつて阿扁は最も信頼できぬ相手であつた上、任期中、斷へず兩岸關係を挑發し、台灣海峽を臨戰體制に置いた憎つくき相手であつた。

  從つて中國は阿扁の徒刑に關心が強い。


  現在、阿扁に國民黨の法官が無期懲役の重刑を下したあと、中國の胸中は一安心、中國にとつて最も頭の痛い人物は、阿扁ではなく陳菊になつた。

  だから陳菊は任期中はひたすら謹慎しないと、今後必ずや陳水扁同樣、國民黨にとつちめられ、北京に對する 「 生贄 」 にされよう。


  第四、呉敦義はなお中國に朱立倫の役割と發想法を解説せねばならなかつたかも知れない。

  中國が現在關心を集中する テーマ は 馬英九の後繼者である。

  後繼者が中國にとつて信用できる人物か否か、獨立傾向色を持つか否かが 關心の的なのだ。

  疑はしければ、 中國は必ず影響力を發揮して朱立倫を潰すだらう。


  こんな状況下で朱立倫は副院長を擔當する。

  朱立倫に餘り喋らず目立たず中國の疑いを呼ぶやうなことは控へるよう忠告しても、國民黨内で後繼者に事缺かぬからには、朱立倫の足を引つ張ることになり兼ねない。

  中國は自らの影響力を行使して朱立倫を引立てることに何ら困難はない。

  これは當然、國民黨が過度に傾中した後遺症である。

  今後、兩岸が引續き深く交流し、北京が 在台利益を深めれば深めるほど、彼らは台灣の政局に對して愈々深く掌握できるやうになる。

  さうなれば台灣は二度と李登輝・陳水扁は出現できず、馬英九が ダライ・ラマ を來台させたやうな事態は絶對あり得なくなる。


       台灣的未來何去何從?


  呉敦義が香港で以上のやうなことをしたのなら、台灣は今後どんどん香港化するだらう。

  中國は今や多分、即時統一の難しさを知つてゐて、國民黨との交流を通じて台灣で代理人を探り、逐次台灣内の台獨の發展空間を封じ込める筈だ。

  これは彼らが當面する最重要な對台工作である。

  中國の台灣部門は數多く、毎年、少なからぬ預算を消化してゐる。業績なしでは濟まない。

  だから 台灣の政局を統制し、台灣の政治指導者の動きを掌握するのは、彼らの最重要任務である。


  從つて呉敦義の香港行は、もし本當に我々が推測した通り、支持獲得と 「 投降 」 であり、國民黨が政府の高層人事を中國絡みで進めるつもりなら、國民黨は今後台灣をどこへ導かうとしてゐるのかを必ず台灣人民にはつきり説明せねばならない。


  特に台灣人民の七割以上が國民黨は台灣の主権を賣渡さうとしてゐるのではないかと心配してゐる状況下では、呉敦義の香港行は一大事件だから、誤魔化したり曖昧にしたりしてはいけない。