日本殲滅を唱へる隣國 核武裝はなぜタブー?

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伊原註: 『 關西師友 』 三月號 18-19頁に掲載した 「 世界の話題 ( 231 ) 」 です。

     『 産經新聞 』 「 正論 」 に載せた 「 日本生存のための自助努力 」 と同じ趣旨の文章ですが、同じ讀者が讀んでも 「 單なる繰返し 」 と思わないよう、書き分けたつもりです。



       日本殲滅を唱へる隣國



       核武裝はなぜタブー?


  我が祖國日本は核保有國に取り圍まれてゐます。米國・ロシヤ・シナ・北朝鮮。

  それなのに我が日本は非核三原則を堅持して居ます。

  曰く、核を 「 作らず、持たず、持込ませず 」


  核論議をタブーにしたのは、佐藤榮作首相です。

  昭和43年1月30日に國會答辯で非核三原則を言明しました。

  佐藤首相まで、日本の歴代首相は核武裝を考慮の中に入れて居ました。

  池田・佐藤兩首相が日米首腦會談で 「 中共が核武裝すれば日本も必ずする 」 と言明してゐます。


  それなのに、なぜ、核を 「 持ち込ませず 」 とまで敬遠したか?

  私は初め、沖縄返還のため、 「 日本にだけは核武裝させぬ 」 としてゐた米國に讓つたのかと思ひました。事實はその反對、 「 持ち込ませず 」 が沖縄返還交渉の重大な障害になりました。

  米國の 「 核の傘 」 の下に居ながら 「 持ち込ませず 」 とやつたのか?

  これを閣議で強硬に主張したのが、中曽根康弘運輸相です。それに引きずられた佐藤首相は、結局、日本の世論に迎合したのではないでせうか。

  このあと、佐藤内閣は經濟成長一邊倒路線に傾き、以後日本では核論議がタブーとなります。


  核武裝をタブーにしたのは、日本が原爆被爆國だからだといふ説がありますが、これはをかしい。

  被爆國だからこそ、二度と核を落させぬため、斷乎核武裝するといふのが本筋です。

  核には核で対抗するほかないからです。


  大體、核反對を叫ぶだけで核が落されずに濟む保證が何處にありませうか?

  こんな子供騙しがまかり通つて來たのは、日米安保のお蔭です。

  でもその代償は大きかつた、日本人が、政治家まで國防音痴になり、國家戰略を考へなくなつたからです。


       遲浩田の日本殲滅論


  日本核武裝の機會は何度もありました。

  中共の原爆實驗・水爆實驗・ミサイル打上げ、人工衛星打上げ等々。

  北朝鮮のミサイル發射も好機でした。

  でも、日本はすべて見送りました。

  かくて日本政府は、國民が拉致されても何も出來ず、主權が犯されても何もしない腑抜けになつたのです。いや、話は逆で、腑抜けだつたから、核武裝の好機を悉く見送つたのでせう。

  日本國民もそれに何ら文句を言はない。


  その日本國民の目を醒ましてくれさうなのが、遲浩田の 「 日本殲滅論 」 です。

  2005年4月、退役將軍として中共中央軍事委員會擴大會議で 「 戰爭が正に我々に向つてやつて來る 」 といふ題目で講演しました。曰く、


  覇權國は他の覇權國の擡頭を阻止する。

  これが國際社會の冷嚴な法則である。

  我國は阿片戰爭以來 160年に亙り列強、特に日本に成長を阻まれた。

  成長するには他國の妨害を排除する戰爭權が不可缺なのだ。

  我國は幸ひ過去二十年、平和に成長できた。それは我國が弱かつたからだ。

  經濟成長によつて我國が強大になるにつれ、 「 シナ脅威論 」 が高まつて來た。

  今後列強は必ずや我國の成長を邪魔する筈だ。

  過去 160年間、さうだつたから、今後 160年間もさうであるに違ひない。

  特に米日は、我國が正當な權利を持つ三島 ( 台灣・南沙諸島・尖閣諸島 ) の獲得を邪魔する。

  その時は斷乎戰つて我國の權益を守らねばならない。

  我々が戰爭を欲しなくとも、列強が、國際政治の冷酷さが、戰爭を我々に強ひる。

  だから、我々は戰ふほかない。

  我國が今後も成長を續けるには、日本を殲滅し、米國の背骨をへし折る必要があるのだ、と。


  この講演の全文は、 「 21世紀日亞協会 」 ホームページの私の 「 讀書室 」 に掲載してあるので御覧下さい。


       對策は核武裝と外交


  遲浩田の論理は無茶苦茶です。

  自らの認識不足・努力不足を棚に上げ、 「 惡いのは皆他人 」 と責任転嫁する中華思想の獨善と獨斷は鼻持ちならない。


  でも彼らは現に大陸間彈道核ミサイルを持ち、SLBM搭載原潛を持ち、人工衛星を飛ばし、獨自GPSまで構築中で、折に觸れて米國に 「 核威嚇 」 をかけて居ます。

  清末以來あれほどシナの近代化を助けた日本人を 「 終始邪魔した 」 と逆恨みするのですから、話合ひで融和できる相手ではありません。

( 日本のシナ近代化への貢献については、例へば、黄文雄 『 近代中國は日本がつくつた 』 光文社、参照 )


  對策は二つ、日本が核武裝し、シナ周邊國と聯繋することです。

  ロシヤ、モンゴル、アセアン諸國、インドなど。マレーシア・インドネシアを含むイスラーム諸國も大事です。

  外交の幅を擴げれば、平和愛好國日本の前途は洋々です。

( 2009.2.8 執筆/3.7 増補 )